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おばあさんとねこ
「あらあら。ミイちゃん、おなかがすいたの?」
白髪の老女は白い猫を抱き上げた。
トイレに行きたいんだニャ。下ろせニャ、ババア。
口の悪いのは俺様ニャ。
ここの主の猫だニャ。ミイちゃんなんてダサい名前でババアは呼ぶけど
俺は認めてないニャ。

おばあさんとねこ


だいたい動きがのろいんだニャ。
よろよろしやがって、危なっかしくて見てらんねーぜだニャ。
昔はもっと元気だったのに”あの事”があってから元気がなくなったニャ。
って、俺様はミルクが飲みたいって言ってねーニャ。

ミルクを白い皿に注ぎ、床に置く。
仕方ねーニャ。
おばあさんの腕をすりぬけ、
猫はぺチャぺチャとミルクを舐めた。
おい
ニャオン
これ、不味いじゃねーかニャア。
ていうか、ミルクじゃニャくて豆乳だニャ。

「あら。おいしいの。よかったわねえ。」
うれしそうに老女は微笑む。
骨ばった手で猫の頭を撫でた。
やめろニャ。ごつごつしてんだニャ!たまらず逃げる。
猫は、
出窓のところに飛び乗った。
あニャ?俺様は窓の外のある人物に気がついたニャ。
猫は窓の外を見つめ、カリカリと窓ガラスを引っかいた。
にゃにゃ!?あれって、じいさんじゃニャアか?
「遊びに行きたいのかい?」
老女は少し寂しそうにする。
じいさんだニャ!
ニャオン
俺様はババアに伝えようとして、ババアを見た。
「そうやって、おじいさんは外に行ったまま帰ってこなかったよ。
そうだニャ。じいさんはいなくなっていたんだニャ。
遊びに行くって言ったまま消えてしまったのさ。
それから、ババアは元気がなくなってしまったんだニャ。
まったく何処に行ったのかねえ。
今、ここにいるニャ。
何十年も前の話だよ。
このドア一枚隔てた所にいるニャ!
でもね、人間一度裏切られると次からは用心するものさ。
ああ、じいさんはここに来ようか迷ってるニャ。うろうろしてるニャ。
お前は外には出さないよ。
手には、花束を持ってるニャ。
一生。
あれは
そうさ、一生お前はこの部屋の中でずっと私といるんだよ。」
あれは、ばあさんの好きな花だニャ。
くっくっくっと笑い、老女は、ミルク皿を流しに持って行った。
帰っちまうニャ!
ニャオン
早くニャ―――!!!
猫は、ますます激しく窓ガラスを引っかく。
じいさんと目が合った。
「そうやって、みんな出ていくのかい?
じいさんは俺様に向かって軽く手を上げた。
外に何があるんだい?
寂しそうに。
一番上の息子は結局戦争に行って死んでしまったよ。
じいさんも寂しかったんだニャ。
外に出なければよかったのに。
外に出ればいいのニャ
お前は外に何を求めているんだい?
ずっと待ってたじいさんがいるニャ
楽しいことがあると思っているのかい?
これから、二人で楽しく暮らせるニャ
いいや、辛いことばかりだよ。
二人なら辛くないニャ
辛いことばかりなのさ。」
ババア!!
老女は、悲しい目をして猫をじっと見た。
遠くに行ってしまった息子達の事
何処かに消えてしまった旦那の事
それに、昔だまされた事...どれも辛い事だった。
外に出たばかりに。
外に出れば。
老女は食卓のテーブルクロスを引っ張った。
ニャ!?
ガチャ―ン
俺様はびっくりして、全身の毛が逆立った。ヒゲがぴりぴりするニャ。
派手な音をたてて、床に花瓶やコップが落ちる。
老女は目から溢れる涙をそのテーブルクロスでぬぐった。
ニャ?去りかけてたじいさんが
「おいき。そんなに見たいのなら行くがいいさ。
どんなに辛くったってあたしゃ知らないからね。」
音にびっくりして戻ってきたニャ。
老女は、玄関のドアノブをぎゅっと掴んだ。
じいさんは玄関の階段を昇る。
「でも、楽しい事もいっぱいあるだろうさ。」
ドアをノックしようか、少し考える。
暖炉の上で楽しそうに笑う息子と孫の写真が鈍く光った。
外は……外は……
のろのろとドアを開ける。
老女にとって、このドアは重すぎるのだ。
ババアにとって外はどうだったんだい?
外には、
じいさんが立っていた。
ババアは腰が抜けるほどびっくりしていた。
「マーサ。ただいま。」
元気そうなババアを見て、じいさんはほっとしたような顔をしてから、
ぽろぽろと涙を流した。

二人は、何も言わずただ泣きながら抱きしめあった。
その後、じいさんの好きなクリームシチューをババアはじっくりと作り、
二人で、ぶどう酒を飲みながら今までの事を話した。
ババアは、俺様の事を勝手に脚色して話した。むかつくけど、楽しそうだから許すニャ。
じいさんは、息子の死に耐え切れなくなって、旅に出ていたらしいニャ。
それは、一晩では語れないくらい壮大な話だニャ。
まあ、二人の時間はたっぷりあるから、これから存分に話していくんだニャ。

ニャオン(物語を全部選択してみて

2003.8.8.(簡単な仕掛けがあります。2度美味しいお話。)
モノクロワールド
     モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。


今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。


検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。


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