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空飛ぶ靴紐
真っ青な空が広がる。
靴紐は一生懸命にその空へと向かう。
何度も何度も俺は自由だといわんばかりに。
気ままに気楽に。
私はそんな靴紐が大好きだ。


「三上。靴紐ほどけてるよ。」
隣を歩いてた友達の棚っちがガムをくちゃくちゃ噛みながらだるそうに言った。
―わざとほどけたままにしてるんだけどな……。
そう密やかに思うのだけど、言ったら変人扱いされそうで
「ん。あんがと。」
とぽつりと言って厚底ブーツの紐を結んだ。


「でさー、現国の大西さー、笑えるのー。赤い洗面器がね…。」
今は高校の帰り。私も棚っちも部活はタルイのでしていない。
楽しそうに棚っちが話していると彼女の鞄の中から歌声が聞こえた。
携帯だったみたいだ。
「あ、カレシからメール来た。んじゃ、アタシ買い物して帰えっから。」
そう言ったとたん棚っちはどこかへ行ってしまった。


雑踏の中、一人残されるあたくし。
何もする事がなくて、ぼんやりと立ち止まってしまった。


どんっ


人ごみの流れに逆らったあたしは
たちまち名前も知らない人達に突き飛ばされる。
この街は立ち止まったものを許してはくれない。


仕方ないのでとりあえずコンビニに行く。
行き場のない者どもの行きつく場所。
窓際には立ち読みをしているおっさん達がまるで陳列物のようだった。
何してるんだろう。この人達。
横目でチラリと観察しながらコンビニメイク用品をチェックした後、
蒸しケーキと500mlのパックジュースを買った。
おなかがすいていたのだ。


出口横の壁際にべちょりと座り、がさごそと買ったものを出す。
食べ終わったらもう一回入って、あのスミレ色のマニキュア買おうかな。
そんな事を考えながら、もぐもぐごきゅごきゅと飲食物を腹の中に収めていく。
うまい。
投げ出した足を見ると、また靴紐がほどけていた。


くたりと地面までたれている。
私と一緒だ。
のんびりゆっくり休んでる。
目の前の道路を右に左に絶え間なくせわしなく人々が歩いていた。
どこにみんな急いで行っているのだろう。
ぼんやりと口を半開きにしながらその人の波を見ていると
本当に自分だけ時が止まっているように思えた。


じろりと唇の色がやけにピンクのおばさんが睨んだ。
かわいそう。
しらないんだ。このおばさんは。
いや、目の前をせかせか歩いているこの人間全員知らないのかもしれない。


座ったら大きな空はもっと大きくなるんだよ。
のんびりしたらお日様は暖かく包んでくれるんだよ。


知っているのは、私と靴紐だけ。


秘密にしていないけど、みんな知らないから秘密になってる秘密事。


ちょっと立ち止まってかがむだけでも手に入るのに
そんな時間も惜しんで何を手に入れたいんだろう。
何が手に入るんだろう。


靴紐を見ると


しらん


と言われた。


さあ。家に帰ろうか。
靴紐と一緒に。
そしたら、
また、
靴紐は空へと向かってジャンプするんだ。
楽しそうに。楽しそうに。


2004.1.22.
モノクロワールド
     モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。


今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。


検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。


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