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恋する女子達10 金で幸せ買う女
     私は毎日金で幸せを買う。


「お待たせいたしました。」
席に現れたのは、彫りが深くて目が優しい、いい男。
私は、にっこりと微笑みかける。


ことりとテーブルに置かれたのは、


ケーキだった。


「おいしそーー☆」
私は目を輝かせながらフォークを手に取る。
「もちろん美味しいですよ。うちのパティシエの自信作なんですから。」
ウエイターは胸をはって言った。
うう…かっこいい。足ながーーい。
この男は、つかささん。
どうやら同い年らしいことを最近知った。


私の名前は、美甘。みかんと読む。
両親が甘いものが大好きで甘いものを食べて美しくなるようにつけたのだ。
そして、しっかりと甘い物好きの遺伝子を受け継いでいる。
毎日、会社の帰りに寄って本日のお勧めケーキを食べる。
ここのケーキは美味しいのだ。そして、ウエイターはいい男。
ああ、幸せ。


生クリームをほおばりながら、私はにんまりとする。
友達に言わせるとこの上なく幸せそうな顔をしているらしい。
甘いものって、なんでこんなに人を幸せにするんだろう。


「幸せそうな顔ですね。ミカンさん。」
突然、横から話しかけられた。
「その幸せな時間を邪魔しないで頂戴。リョウ君。」
声の主の方を見ず、ミカンは言った。
毎日来る客は、ミカンだけではない。
このリョウは学生のくせに毎日ケーキを食べに来るのだ。
くうう。
私なんか、高校の時なんて
150円のプリン買うのも一時間迷ったのに!!!


学ランを来て、くるくるまん丸な目でじっとこっちを見ている。
私……この目に弱いのよね……。
なんか純粋な若い目をしてるっていうか、
真っ黒な目に吸い込まれそうというか…。
何だか恥ずかしくなって、無言でしっしと手でジェスチャーした。
リョウはちぇっと言いながらもくもくとケーキを食べ始める。
でかい背中。よく見ると肩幅とか結構あるのね。
まあ、足の長さはつかささんには負けるけど。
今度は、ミカンがリョウを見つめていた。


名前の知らないピアノ曲が流れてる。
居心地のいい時間。
ああ、今日もいい日。




次の日、休みなので古本やめぐりをしていた。
洋書の絵本が可愛くて真剣に選んでいると、視線を感じた。

そっとあたりをうかがうと、一人の男がじっとこっちを見ていた。
知らない人だ。
というか、金髪だよ。ヤンキー?
何か話しかけたそうにしている。
もしかして、ストーカー??


怖くなって、外に出ようとした。古本屋のドアを開けたとたんに
ザアアアアアア
凄い雨が降ってきた。
うそ。
ミカンが呆然としていると、
「アノー」
後ろから声をかけられた。
「うひゃおえ」
得たいの知れない言語でミカンが叫ぶと相手はひるんだようだった。
今のうちに逃げればと思った瞬間。
「私ノオ店ニ毎日ケーキヲ食ベニ来テクダサッテルオ客様デスヨネ。」


そう言われた。
一瞬何の事か分からなかった。
もしかして
ひょっとして
「パティシエの人ですか!?」
変な甲高い声でミカンは叫んだ。
びっくりしたので声が裏返ってしまったのだ。




カチャカチャ
紅茶に入れた砂糖はさらさらと崩れて溶けていった。
目の前には、パティシエのトニー。
よく見ると染めた変な金髪のにいちゃんじゃなく、
綺麗なさらさらの地毛の金髪で、目は青かった。
彫りが深っ!つかささんなんか目じゃないくらいに深っ。
「不審人物ニ見ラレテ イタノデスカ。」
トニーはしょんぼりとする。
「いや、だから、見た事なかったから。ケーキは毎日食べてるけど。」
ミカンはあわてて言った。
しょぼん…。
「ケ…ケーキ美味しいです!!ずっと会いたいなーって思ってたんですよ!」
ミカンは、元気を出させようとして思わず言ってしまった。
途端にトニーの表情がぱああっと明るくなった。
「本当デスカ!?」
「ええ。本当よ。だから毎日、食べに行ってるんじゃない。」
そういいながら、ミカンは赤面した。


うわあ。この人、本当に綺麗な顔してる。
繊細で真っ白な肌。絹のような髪。
あのお店で食べるフルーツのムースケーキはこの人そのものだ。
繊細で爽やかで、そして、甘い。


ミカンが見とれていると、ケーキがはこばれてきた。
本屋の近くのケーキやで、休みの日はよく来るのだ。
とたんに、トニーの顔が真剣になる。
トニーは、じっとケーキを見つめ、一口そっと食べる。
そして、目を閉じて、じっくりと味わう。
まつげも長い。と、ミカンは関係のない事を考えながら
一口ケーキを食べた。
「美味しい!」
おもわず、ミカンは口に出してしまった。
ああ、顔がとろけてくる。


「ソウ、ソノ顔デス。」
トニーが突然言った。ミカンがきょとんとしてると、指をさしてトニーがもう一度言った。
「ソノ、顔デス。」
「顔がどうしたの?」
何の事やら分からず、ミカンは聞いた。


トニーが、そっとミカンの手を握った。じっと目を見ながら答える。
「イツモ、ソウヤッテ幸セソウナ顔デ私ノケーキヲ食ベテクダサイマスネ。
私モ、ズット会イタイト思ッテマシタ。
前ニ、一度ダケケーキヲ残シタ事ガアリマシタネ。
アノ日ハ、満足ナ ケーキジャナカッタノデス。
アノ日カラ、僕ハ ミカンサンノ笑顔ガ見ラレルヨウ
心ヲ込メテ作ッテマシタ。
ミカンサンノ為ニ…。」


ミカンは青い目にじっと見つめられてくらくらしてきた。
心臓がバクバクする。


「じゃ…じゃあ、これからはどんなケーキを作るの?」
さりげなく手をはずし、話題を変えた。


「ソウナンデスヨネ。イイ アイデアガ 浮カバナクテ。」
ケーキの話になると、途端に仕事人の顔になる。
一つのことに一生懸命になる人ってかっこいい。
そう、ミカンは思いながらケーキを食べた。
ふと、トニーはミカンの手元にある紙袋に気がついた。
「ソレハ ナニデスカ?」
ん?とケーキを頬張りながらミカンは紙袋から中身を取り出す。
「じゃーん。絵本!!可愛いでしょ!人魚姫の綺麗な絵本を見つけたの。」
途端にトニーは真剣な顔になる。
「人魚姫のね、泡になるシーンが好きなの。悲しいけど、綺麗でしょ。」
うれしそうにミカンが話していると、ガタンとトニーが突然立ち上がった。
「コレデス!!」
そう叫んで、どこかへ走り去ってしまった。
「お…お勘定は…?」
ミカンは、ただ呆然とするしかなかった。




次の日、お店に行ってみると閉まっていた。
次の日も、閉まっていた。
次の日も、閉まっていた。が、つかささんがお店の前にいた。
「トニーさん、どうしちゃったんですか?」
ミカンは、つかささんに聞いた。
「それがね…。新作のケーキにとりかかってるらしいんだ。
なんでも、カワイイスイーツの連作を作るらしいよ。」
「カワイイスイーツ?」
「童話をもとに可愛いケーキを作るんだってさ。
白雪姫、シンデレラ、人魚姫、ぐりとぐら…」
なんだか、最後のは童話なのか疑問だけど
とりあえず私の話からヒントを得たらしい。
いつ食べられるんだろう…そう、ミカンが考えていると箱が差し出された。
つかささんは、少し困った顔で言う。
「で、伝言を頼まれているんだ。」
そう言いながら、箱を開ける。
そこには、真っ赤なハートのケーキの上にチョコで
愛してる
と、達筆な字で書かれていた。
全身の力が抜けそうになった。


つかささんは、本当に困った顔をしている。
「ストレートだね。ずっとトニーはみかんちゃんを見てたからね。」
妙な間があった。勇気を出してって感じでつかささんは言った。
「でも!!……見てたのはトニーだけじゃないんだ……。」
真っ直ぐに見つめられる。
「僕も見てたんだよ。この言葉は、トニーのだけど、
僕が言いたかった言葉でもあるんだ。」
えええ!!!??
全身の力が抜けた。


「待てよ!!つかさ!!抜け駆けすんな!」
息を切らして来たのは、リョウだった。
走ってきたようで、汗が頬を伝った。
「俺だって見てたんだ!」
腰が抜けた。


どうなってるんだ!?
毎日、甘い物を食べてただけなのに。




座り込んだミカンは店の中に運ばれ水をもらっていた。
いつもと変わらない店の中。


優しいつかささん
純粋なリョウ君
そして、ケーキ一筋のトニー


私は……私は……
3人とも好き。


コップの中の氷がカランと音をたてて崩れた。


この空間の全てが好き。
どれか一つなんて選べない。
ケーキと一緒で贅沢なのだ。


向こうでは、カワイイスイーツが並んでる。
その向こうには、スイーツな男達。
そして、男達と私。
どうなるのか分からない。
ただ幸せな空間がここにはある。



2003.11.5.



モノクロワールドとgirls in loveについて
モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。


今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。


検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。


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