恋する生活 生活に恋する
girls in love
バナー 10000047


 カテゴリ
 ショップ一覧
 読み物など
恋する女子達4 しおりの休日(後)
     「だーかーらー。明日デートしようぜ。しおりちゃん。」

僕はまだ理解できない。

ナンデナマエシッテルノ?

きょとんとしてると僕の背中を指差した。
「剣道の竹刀に名前が書いてある。ついでに住所も。」

「ああ。」
やっと、声がそれだけ出せた。
「じゃ、明日ね。」
返事を聞かずにノブはそのまま行ってしまった。




土曜日、真っ赤な車が家の前に止まってる。
ホントに来たんだ。

「俺ってば、記憶力だけは良いんだよね―。すぐ分かってよかったよ。」
僕が助手席に座ると、ノブは楽しそうに言った。

今日は剣道に行く気がしない。
毎朝、2杯は食べるご飯も今日は喉を通らなかった。

もしかして、こんなに素直に車なんか乗っちゃって
もしかしなくても、アブナイ?

はっと、自分の置かれている立場に気がついた。
冷や汗が出てきた。
どーしよー

「そんなにおびえなくても、なんにも悪い事しませーん。」
遠くを見つめながら、ノブは言った。

「その時は、車の後ろにおいてる傘で殴るから。」
僕は少し警戒をときながら言った。




車は一時間ほど走って、海についた。
広い海は心地よい風が吹いていた。
空も海も吸い込まれそうなくらい真っ青だ。

2人とも無言で海を見ていた。
黙ってると昨日のことを思い出す。

クマガイセンセイガ オンナト フタリデ アルイテタ

涙が出てきそうになった。
気を紛らわそうと横を見ると

ノブが泣いてた。

なんで泣いてるの―?そう聞きたかったけど聞けなかった。
ただ2人で海を見つめてた。
ザザーン
波の音が絶え間なく聞こえてる。


「喉かわいたな。」
しばらくしてポツリとノブが言った。
あっちに公園があるんだ。

公園は閉まってた。

ノブはひょいっと柵を越える。
僕だって!負けずに柵をよじ登った。

そこには小さな舞台があった。
ペンキがところどころはげてる。

ノブはすっと舞台に上がった。

顔を上げたノブはひどく悲しげで美しかった。
歌を歌う。
バラードだ。
ノブの歌声はやわらかく辺りを包み込む。

スゴイ

僕は感動して頭の後ろがジンジンしてきた。

ノブは歌い終わるとジュースを買いに行った。

まだ余韻が僕の体の中に残ってる。
あの歌は望に借りたCDで聞いた気がする。

…望…?そうだ、望にも知らせなきゃ。
嬉しくって死んでしまうかもしれない。

メールをしようと携帯をそっと取り出すと、
メールがいつの間にか来ていた。
望からだ。

―しおりー。どうしよう。ノブが行方不明なんだって。
今日コンサートなのに。

ぞっとした。
そういえば、コンサートとかって望が言ってた。
ライのコンサート。
ノブはそのリーダーだ。

「サイダーにしたぜ。」
ノブが帰ってきた。
投げてサイダーをよこす。

缶が地面に落ちた。
穴が開いてプシューと音を立ててサイダーが出る。
「何してんだよ。鈍くせ―な。」
笑いながらノブは言った。
僕は笑えなかった。

「行かなきゃ。」
声を絞り出す。
ノブの顔も真面目になった。
「コンサート行かなきゃ。」

「いいんだよ。もう。」
吐き捨てるようにノブは言う。
「何に対して歌えばいいのかもう分からなくなったんだ。」
「さっき歌ったじゃんか。」
「さっきは…」

「さっきは、お前の為に歌ったんだ。」

まっすぐにこっちを見る。
僕も見つめ返す。

「じゃあ…これからも、私の為に歌ってよ。一緒にコンサートに行こう。」
僕が手を差し伸べるとノブはその手に口付けてくれた。
暖かくてやわらかかった。




まぶしいくらいのスポットライト。
その真ん中にノブがいる。

「やっぱり、しおりは私の親友よ―!コンサートに一緒に来てくれるなんて。」
「望もよくぎりぎりまでチケット持っててくれたね。よしよし」
「そりゃ、信じていましたさ。」
2人が囁きあってると、ライトはきれいなブルーに変わりノブのソロが始まった。

さっき聞いた曲だった。
もうノブとも会うことはないだろう。
きっとそのうち今日あったことも忘れてしまうんだ。

「ね。この歌なんていう曲?」
望にそっと聞いた。

「君だけのために歌う…よ。」

僕はそっと目を閉じ曲を聴いた。
波の音が聞こえた気がした。


2003.6.25.


モノクロワールドとgirls in loveについて
モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。


今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。


検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。


モノクロワールドのもくじにもどる


+ PR +
バナー 10000018