恋する女子達5 熱い涙
--左バナー広告説明など-->
サク―剃刀で切ると肉は小気味いい音を立てて破ける。
一呼吸おいて血が溢れ出す。
風呂場の蛇口から流れ出るお湯と混ざり合う。
マナは溜まっていたものを吐き出すようにため息をした。
このまま死ねたら幸せなのに
その思いとは逆に生きていると実感するのもこの時だ。
死にたいと思う心。生きていると実感したい心。
もしかするとこの2つの心は同じものなのだろうか。
メメントモリ
死を想え
ジンを飲もうと瓶を取ろうとしたが手が滑って瓶は倒れた。
瓶にはお酒は残ってなかった。一本済んだのか……
もう体は動かせなかった。
だらりと腕が床に落ち、体が横になった。
見なれた天井の壁紙が見えた。自分の部屋だ。うんざりした。
泣き声が聞こえる。多分、母だろう。ますますうんざりする。
目だけを動かして横を見た。
?―知らない男がいる。誰?
「家庭教師よ。遠い親戚なの。高校くらいはでとかないと……」
母は涙を拭きながら言った。
怒鳴りつけたかったがそんな体力も言葉もなかった。
イライラする。殺してえ。
デパスもソラナックスもリスパダールもアキネトンもレンドルミンもワイパックスもPZCもセパゾンもハルシオンもキカネ―よ。
目の前の物を無茶苦茶にしたくなる何もかも消えてなくなれ。
お前が死ねよ。
自分の中のもう一人が冷たく言う。
サク―またか。
なんでこうも切ってしまうのか。
自分を抑える為?
こんな時でも血は暖かいのね。
何度目かの授業の時、いつも寝てばかりいるから悪いかなと思って、
薬でさっぱり動かない頭で質問してみた。
「先生、解の公式って何ですか?」
ソレハネ……パクパクと口が動く。いつも先生の声は届かない。
先生の声帯から空気を伝わってくる振動は私の鼓膜を震わしてはいるのだろうけど、
脳はそれを処理してくれない。脳が情報を処理するって事が聞くって事なんだね。
耳で聞くんじゃないんだ。頭で聞くんだ。
それがこの何回かの授業で学んだことだった。
ある日、病院から帰ると家は真っ暗だった。夕立が来るらしい。
いつもいる母はいなかった。
もう帰ってこないかもしれない。そんな思いが体の中を駆け巡った。
寂しい
目の前が真っ暗になった。遠くで雷鳴が聞こえる。
一人にしないで。誰か愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して……!!!
雷が窓いっぱいに光った。
鏡に、ためていた金ハルシオンを飲む自分の姿があった。
夜叉みたいな顔だ。
「マナさん……!!」
先生の腕が私の手をつかんだ。
愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。愛して。誰か……!!!!
先生の肩を掴む。指が食い込む。思いは声に出ず、息がひゅうひゅうと音を立てるだけだった。
先生はマナを抱きしめた。
暖かい―。自分の血よりも暖かい物がそこにあった。
頭の中が白くなっていく。過呼吸か―。
私は薄れる意識の中、自分の心に正直過ぎる身体に笑ってしまった。
ずっと寂しかったのだ。一人だったのだ。
白い天井が見えた。
手を先生が握っていてくれた。
意識が戻った私を見て先生は母を呼びに行こうとした。
「ずっと、一緒にいて。」
呟くように言った。先生は少し驚いた顔をした後、こくんと頷いてぎゅっと手を握ってくれた。
嘘。それは嘘だと分かってる。でも少しだけ、夢を見させて欲しいの。
愛してくれる人がいるって。
頬を涙が伝った。
熱い熱い涙だった。
私は生きている。
2003.7.4.
モノクロワールドとgirls in loveについて
--左バナー広告説明など-->
モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。
今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。
検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。
モノクロワールドのもくじにもどる