恋する生活 生活に恋する
girls in love
バナー 10000047


 カテゴリ
 ショップ一覧
 読み物など
恋する女子達6 チョコレートパフェ・パニック
     「あと1分です!」
会場に司会のおにーさんの声が響く。
ここは、子供お菓子選手権予選の会場。
小学生くらいの女子男子がラストスパートをかけてお菓子を作っている。
テーマは「ショートケーキ」だ。

楽勝ね。
カンナはペロッと唇をなめて最後の仕上げにかかる。
ピンクに染まった生クリームがお皿に模様を描く。
そこには夢のような世界が広がっていた。

「出来た……」
カンナは額の汗を拭きながらちらりと横を見た。

スズキ タカオと書いた名札をつけた男子が涼しげな顔をしてこっちを見ていた。
目が合う。だけど2人は目をそらそうとはしなかった。

絶対に負けられない。
カンナは思いを込めて目にぐっと力を入れた。
「終了です!」
終了の合図がなった。

スズキ君は2学年上の6年生だ。
今年でこの子供お菓子選手権も最後となる。
カンナは3年連続2位だった。
小さい頃から天才お菓子職人といわれながらも、
このスズキ君を抜くことだけは出来なかった。
初めての壁だった。
スズキ君は、いつも先にお菓子を仕上げ涼しげな眼差しで遠くを見ていた。
私なんか眼じゃないとでも言うかのごとく。
この大会が見返すことのできる最後のチャンスだ。

「……です。そして、本選のテーマはチョコレートパフェ!!」
はっと気がついたときは、審査も終わりかけだった。
どうなったのだ?

「予選通過おめでとう。」
初めてスズキ君が話しかけてきた。思ったより高い声だ。でも、綺麗な声。
「本選でも頑張ってね。ま、勝つのは僕だけどね。」
む……やな奴。しかし、2人とも予選通過のようだ。

「絶対に負けないから!」
思わず大きな声で言ってしまった。
周りの人が驚いてこっちを向いた。
カンナは顔が赤くなってしまった。そして、もう一度声を潜めて言った。
「絶対に負けないからね!」

くすりとスズキ君は笑って余裕綽々言った。
「毎回期待してるよ。互角に戦えるのは君だけだから。」
心臓がどきんとした。
「今回ももちろん期待している。」

そんな言葉を言うとは思ってなかった。
いつもこっちなんて見てなかったから。
私だけが見ているのだろうと思ってた。

「来年から、僕はフランスに行くんだ。もう君とは会えない。」
心臓が止まった気がした。今なんて?

「おじいさんが向こうに住んでいるんだ。お菓子作りの勉強も兼ねて向こうへ行く。」
日本にいれば他の大会でも会える可能性はない事はない。
しかし、スズキ君がフランスに行くとなれば相手にするのは世界レベルだ。
会える可能性はゼロに近いように感じた。
目の前が真っ暗になった。




本選。
本選はテレビで放送される。
スタジオはライトでまぶしかった。
カメラの冷たい視線がじっとこちらを見つめている。
スズキ君は相変わらず涼しげな顔で遠くを見つめていた。

これが最後のチャンス。

カンナはぎゅっとこぶしを固めた。
いつもの司会のおにーさんが明るい表情で手を上げる。
「子供お菓子選手権本選始まりです!」
開始の笛が鳴った。

普通のパフェじゃ、スズキ君には勝てない。
小手先を変えただけでも、スズキ君には勝てない。

心だ。

今の思いを込めてこのパフェを作るしかない!
みんな一斉にお菓子を作り始めた。

「おーっと、これはどうした事でしょう!?」
はじめに気がついたのは司会のおにーさんだった。
「チョコレートパフェのはずなのですが、カンナ選手のパフェは真っ白です!」
審査員席がざわつく。
「チョコレートを使ったパフェでなければ失格となります。
最後にチョコレートをかけるのでしょうか?」

もう会えないなんて卑怯だ。
勝ち逃げなんてさせない。
絶対に絶対に

負けるわけにはいかないのよ!!!!!!!!

ふわり。真っ白なパフェの上にレースがかかる。

「こ……これは!」
司会の人が声をあげる。

「これが私の気持ちよ。」
まっすぐにスズキ君を見つめ、彼だけに聞こえるように呟いた。

「ウエディングドレスだ――――!!!!」
司会のおにーさんは絶叫していた。審査員席からも、おー!と声が聞こえた。

終了の合図が鳴った。

終わった。
カンナはすべての力を使い果たし、脱力した。

「しかし、テーマはチョコレートパフェです。これは、審査外となるのでしょうか!!???」
緊張の一瞬だ。審査員の口にカンナのパフェが入っていく。
「これは……」
審査員がみんな絶句した。

「これは、ホワイトチョコですね。
レースもホワイトチョコです。
しかも、ただのホワイトチョコではない。
紅茶のような薔薇の香りが鼻を抜ける。
なんとも華やかでまさしく結婚式の花嫁のような幸せな気分になる
チョコレートパフェです!!」

「全員一致で優勝は……」

ライトが一斉に当たる。

「山崎 カンナさんです!!!!!」
カンナの隣にはスズキ君がいた。いつもカンナがいた2位だった。

「やるじゃん。」
スズキ君は片目をつむってにっと笑った。
「でも、来年からはびしばし修行するから、また突き放してやるよ。」
カンナは涼しげな顔をして遠くを見つめながら言った。
「私もあなたの所へ行くわ。何処までもついてって、追い越してやるんだから。」

そして、このパフェそっくりのウエディングドレスをあなたのために着よう。


2003.7.5.


モノクロワールドとgirls in loveについて
モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。


今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。


検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。


モノクロワールドのもくじにもどる


+ PR +
バナー 10000018