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恋する女子達7 なぜ共感覚なのか?
    
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阿僧祇の夢か、那由他の幻か
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宇宙の意識は儚い一粒の水滴
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―脳とは電気信号と化学信号による複雑な回路により成り立っている

ピ…ピ…ピ…ピ…
規則正しい電子音が聞こえる。

―聴覚により信号を受け取り電気信号にし、ニューロンを伝わり脳内に伝達される

「静!!!お母さんよ!聞こえる!!??」
涙まじりの母の声が聞こえた。何―?目をそっと開けると真っ白な部屋に母と父の顔があった。
「……お母さん……お父さん……?」
そう静が言ったとたんに、母と父は泣き崩れた。




―上腕二頭筋を支配している運動神経細胞が興奮し、曲げる筋肉を収縮させる

「そう。私、倒れたんだ。」
曲げた腕を見つめながら、静は病院のベットに横になったまま母と話していた。1週間前に急に倒れて意識不明になっていたらしい。そういえば、頭が割れるくらい痛くなって記憶が途絶えた気がする。

―数学が脳の構造を表すのです 音も光も数学で表すことが出来ます 

外のせみの声が五月蝿い。静はぼんやりと窓の外を眺めた。といっても、ころんでいるので空しか見えないのだが。……何か夢を見ていた気がするんだけど、どんな夢だっけ……?不思議な夢だったような気がする。空を見つめながら、思い出せない夢の内容について考えていた。

―存在している物を存在していない物にすることは不可能 ただ、脳は経験に無い物を、「ない」とみなすことが出来る器官です 観測されなければ存在しないのですよ 描象は描けないのです

ふと、つけていたテレビからコマーシャルの音楽が流れてきた。名前は知らないピアノの曲だ。その瞬間、不思議なことが起こった。目の前に同い年くらいの男の子が現れたのだ。少し長めの髪がさらさらと揺れている。
「誰……?」
静がそう言うと音楽は終わり、男の子は消えてしまった。
「どうしたの?」
母が不審そうな顔をしている。
「窓の外に男の子がいたの。お母さん見なかった?」
「そんな人いなかったわよ。やーね―。寝ぼけて。」
母がころころと笑った。夢……?静は首をかしげた。




―宇宙全ては単純です ただ我々が無知なだけ

それから一ヶ月が過ぎた。静の部屋には先輩の新堂先輩がいる。
「で、ピアノ曲が流れるとその男の子が現れるんだ。」
新堂先輩はふーむとうなりながら口元に手を当てた。先輩のくせだ。
「そうなんです。全然知らない男の子。私、どうかしちゃったんでしょうか?」

―セロトニンが脳内に分泌される 眠ること多し

「音楽……幻視……もしかすると、共感覚というものなのかもしれない。」
「共感覚?」
「音楽を聴くと色や形が見えてくるらしい。この間倒れた時に頭が痛くなったんだよね。」
「はい。」
「この共感覚っていうのは辺縁系の働きが活発な人に起こるものらしいけど、脳の腫瘍でも起こるらしいんだ。」
「じゃあ、私に脳腫瘍が……?」
「まあ、そう決まったわけじゃないけど。一度、お医者さんに聞いてみたほうがいいよ。」
先輩は優しくそう言うと帰ってしまった。




―ドーパミンが分泌される

部屋に一人になる。
そっとCDを取り出しかける。男の子が現れた。
人は繰り返し見た顔を好きになるらしい。聞いたときは嘘だと思ったけど、本当だったみたいだ。一ヶ月間、会いつづけてこの名前も知らない男の子のことが好きになっていた。

―好きや嫌いは生き残るために培われた能力です 主に、大脳の辺縁系が受け持っています

ねえ。あなたは何処にいるの?過去?未来?それとも今?
ねえ。あなたは何処にいるの?この地球?それとも宇宙?

―細胞があるのですよ 好きな物に対する細胞

ふわり。男の子が浮き上がった。青い空に吸い込まれていく。
待って―。
静は追いかけた。
気がつくと、ベランダを越えていた。ここは、マンションの8階。
ゆっくりと静は落ちていく。男の子が優しく抱き寄せてくれた。もう消えない。
静は幸せそうに微笑んだ。




ピ…ピ…ピ…ピ…
薄暗い地下室。数名の大人達がパソコンに向かっている。
「これで、いいですね。お母さん。」
リーダーらしき人が静の母親に問い掛ける。母は涙ながらに頷いた。隣にいた静の父に寄りかかる。


一ヶ月前に静は死んでいた。
しかし、母親は恋くらいさせて死なせてやりたいと切望した。そこに現れたのは国のある研究機関であった。一ヶ月の期限つきで静を生かせると。ただし、ヴァーチャルではあるが。

リーダーは、気付かれないようににんまりとした。いいサンプルが取れた。視線の先には溶液に浮かんだ脳みそが一つあった。

ピー―――――――

電子音が部屋に響き渡る。




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阿僧祇の夢か、那由他の幻か
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宇宙の意識は儚い一粒の水滴
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2003.7.23.


モノクロワールドとgirls in loveについて
モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。


今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。


検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。


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