恋する生活 生活に恋する
girls in love
バナー 10000047


 カテゴリ
 ショップ一覧
 読み物など
恋する女子達8 社会不適応女
     Q:次の空欄に言葉を当てはめよ。

A:国民の三大義務は、[ ]と[ ]と[ ]である。




「はっ!くだらないわねえ!!」
ビール臭い息をはきながら町子は大声を上げた。
「ちょっと、お隣さんに聞こえるわよ。」
とりあえずと言った感じで良美が赤い顔でいう。ふんと鼻で笑いながら、町子は昼間に隣はいないのよおと言った。

そう、昼間っからこいつら……いや、この女子達はビールを飲んでいるのである。
床には1ケースほどのビールが散らばっている。

「てゆうかさあー。わたしらって、女子なの?」
良美が、あいたビールの缶をもてあそびながら訊く。
「言わないで!恋する女はみんな女子なのよ。たとえ二十数年生きていようとも!」
「昼間っからビール飲んだくれてても?」
「そうよ。ビバ・ラブ!」
そう言いながら、町子は日本酒のふたをシュポンと開けた。キリンビールとロゴが入っているガラスのコップにドボドボと注ぐ。
そのコップを見ながら、良美が思っていた疑問をぶつける。
「てゆうかさあー。あんた、働かないの?」

―A:労働の義務

「うるさいわね。バツ一女。」
町子は、ごくごくと喉を鳴らしながら日本酒を飲む。それにつられて、良美も日本酒を飲むことにした。今日の酒は純米大吟醸なのでちょっと良美には甘いのだが、まあいい(飲めれば)。

焦点のあわない目で、町子は言う。誰に向かって言っているのか分からないが多分良美だ。
「子供にちゃんと教育受けさせてるの?」
「いんやー。わしゃ、しらん。あっちが育ててるからねー。」

―A:子供に教育を受けさせる義務

「まあ、いいや。このポンシュおいしーね。さすが大吟醸。」
町子は甘いお酒が好きだった。働いてないのに何処からお金が出ているのだろう。町子とは、幼稚園からの親友だが、生活のことはよく知らなかった。働いていない事と、納税していないことぐらいしか知らない。消費税も払うのが嫌で、消費税のかからないばあさんがやってる店で食材などは全部買っている。

―A:納税の義務

「大吟醸なんか飲んでるんじゃねーよ。この、非納税者。」
良美は、口に含んだ酒をブッと町子に吐きかけた。町子はいつものことなので気にした様子もなく、膝をぽんと叩いて言う。
「それがさあ、納税してるのよ。くそに。腹たつけど、仕方ないの。」
その目は遠くに逝っていた。良美は、ピンと思い当たることがあって言う。
「もしかして、また惚れたの!?」
「だって、恋女なんですもの。恋しなきゃ、始まらないでしょ。」
ぽっと頬を赤らめる。しかし、もう酒で赤くなっていたのでよく分からなかった。
「もう、話も大分進んでるんだけど……。てゆうかあ、相手誰?」
「コンビニ店員。渋谷 次郎(29)。靴のサイズ27cm。」
「うわ。きしょ。てゆうかあ、ビミョー。」
良美なりによかったねと言ったつもりだった。町子にも通じたらしく、そのコンビニ店員を見に行くことにした。




「きっと、彼がクリームパン並べてる時に私がハンカチ落として出会いが始まるのよ。風とかブワッてふいて。」
町子はいやに饒舌になっていた。家を出た時から異常に話している。てゆうか、その出会いはどうなのだろう。

コンビニに来た。
とたんに町子の態度が変わった。
くしゃくしゃになってる髪の毛を撫でつけ、息を確かめてる。酒臭すぎて分からないのだが。
Tシャツの皺をのばそうと努力し、ジャージのズボンをおへその上まで引き上げる。引き上げすぎて、すそが短く見えた。
すっかり恋する女子の顔になっていた。赤ら顔も、恥らう乙女に見えないこともない。(無理をすれば)
『恋する女は女子なのよ』町子の言葉がよみがえる。そうかもしれない、良美は町子が可愛く見えてきた。例え、国民の三大義務を満たしてない女だろうとも、朝からビールを飲んでいようとも、立派な女子なのだ。

「行くわよ!」
町子は勢いよく踏み出し、自動ドアにぶつかった。器用だ。
「大丈夫ですか?」
そのとき、眼鏡のやさしそうな感じの店員が出てきた。ノビタみたいだ。そう良美は思ったのだが、町子の顔を見るとこの人が渋谷 次郎(29)だと分かったので、何も言わなかった。
「……はい。」
目をうるうるさせている。痛いのかもしれない。
「そうだ、沼尾さんに渡すものがあったんです。」
そう言って、次郎は店の中に入っていった。町子は腰が抜けたようにその場にへたりこんでいた。
ぼおっと、次郎の背中を見ている。ちょっと怪しい人かもしれない。良美は酒がきれてきたので、少し冷静になってきた。

「はい、これ。賞味期限切れたお弁当。本当は駄目なんですよー。」
くすくす笑いながら、次郎はビニール袋を差し出した。町子は、そのビニール袋をグワシッとつかむと身を乗り出して、震える声で言った。
「私……私……あの……す……ス……。」
良美はごくりとつばを飲みこんだ。言うのか、アルコールに漬かった脳で。
「私……チーカマ12本入りが欲しいんですけどありますか?」
良美の膝はがくっと折れた。「す」って何だったのだ。




結局、チーカマ3本入りしかなく、近所のばあさんの店に行った。
「やっぱり、ここの店が一番だわ。」
次郎にもらったビニール袋を振りまわしながらつまみを買っていく。
少し嬉しそうだった。

良美は少し離れた所から嬉しそうな町子を見ながら考える。

この恋は……いや、あんたの恋は上手くいかないかもしれないけれど、
今のあんたは立派な女子だよ。

例え、イカさきとイカりんぐどっちを買おうか迷おうとも!!


2003.7.29.


モノクロワールドとgirls in loveについて
モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。


今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。


検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。


モノクロワールドのもくじにもどる


+ PR +
バナー 10000018