恋する生活 生活に恋する
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off
―最近、寒いですね。北海道はどうですか?
―外は寒いですー。でも、星がきれいですよ♪
―岡山も寒いです。


何気ない会話。だけど


―マジョマジョさんが入室されました
マジョマジョ;こんばんは。
るみるみ;あっ。こんばんは、マジョマジョさん♪
マリーン;はじめまして。>マジョマジョさん


それは、インターネットという限られた世界の中で行われる会話―チャット
これが私の毎日の日課。onの世界だけが私の世界。


真夜中のシーンとした部屋は深々と冷え込んでくる。
足が冷たい。
冷え切った現実とうらはらに、頭の中はまるでパーティにきたかのように賑やかだった。
人数はどんどん増えていき、
盛り上がりも最高潮を迎えようかという時に彼はやってきた。


―ドーナッツ王子さんが入室されました


胸がどきっとした。


ドーナッツ王子;ばんわー
tora;やほ!>ドーナッツ王子
イライザ;こんばんは
くまー;お久しぶりだくま


マジョマジョ;こんばんは


キーを打つ手がもどかしい。焦ってうまく打てない。一番最初に挨拶したかったのに…。


ドーナッツ王子がここに来たのは先週くらいの事だった。
たまたま、その時は人が全然来なくて帰ろうかなーなんて思っているところに
ドーナッツ王子はやってきた。


ドーナッツ王子;あんまり、人いないねー
マジョマジョ;いつもはもっといるんだけど…今日はたまたまだよ。
ドーナッツ王子;そっかー。じゃあ、今日は


正直、私は帰るんだろうなって思った。二人だと間が持たない。私も居心地が悪くて帰りたかった。


ドーナッツ王子;そっかー。じゃあ、今日はラッキーだったな。
マジョマジョ;え?
ドーナッツ王子;だって、マジョマジョちゃんみたいな可愛い子と二人っきりなんだもん♪


そんなこと言われるなんて思ってなかったので、顔が真っ赤になった。


マジョマジョ;私、可愛くないよ〜
ドーナッツ王子;そうかなー?性格とかも良さそうだし。


ネットナンパ…ちらりとそんな言葉が頭をかすめた。
軽そうだもんね。見たこともない人に向かって可愛いなんて、馬鹿じゃないの。


マジョマジョ;もーっ。見たこともないのに、そんなこと言っちゃダメだよ!















返事がなかった。……怒った?逆切れ?




















―ドーナッツ王子さんが入室しました
ドーナッツ王子;ごめんごめん。落ちちゃった!


がくっ。力が抜けた。


ドーナッツ王子;うわっ。間が悪いときに落ちちゃってるね。
マジョマジョ;別にいいよ。
ドーナッツ王子;怒ってる?
マジョマジョ;別に。
ドーナッツ王子;怒ってる〜(泣
マジョマジョ;怒ってないってば(w


「はははっ」
思わずリアルに笑ってしまった。
自分の耳にリアルな自分の声が聞こえてびくっとなる。
あ、自分の部屋だったのか。急にoffの世界に引き戻された気がした。


ドーナッツ王子;当ててみせようか。


ドーナッツ王子がまた変なことを言い始めた。


ドーナッツ王子;画面の向こうのマジョマジョちゃんがどんな子か、当ててみせよう。
マジョマジョ;そんなの出来るっこないよー
ドーナッツ王子;やってみなきゃわかんないでしょ
マジョマジョ;はいはい
ドーナッツ王子;まずねー。髪は肩につくぐらい。
マジョマジョ;お。当たり。
ドーナッツ王子;そうだねー。趣味は小説を読むこと。
マジョマジョ;また当たり〜。
ドーナッツ王子;眼鏡をかけている
マジョマジョ;他には?


まぐれだと思ってた。ネットをしてる女の子のイメージを言ってるだけかと。


ドーナッツ王子;紅茶好き。
ドーナッツ王子;体育は嫌い。
ドーナッツ王子;年は中学生くらい。
マジョマジョ;中学何年生でしょう?
ドーナッツ王子;某有名進学校の中学3年生


背中がぞくっとした。なんで……?手にじわりと汗が出てくる。


ドーナッツ王子;色白で人見知りですぐ泣く
ドーナッツ王子;人と話すときはうつむいて目を見ない
ドーナッツ王子;いつもびくびくしてる
ドーナッツ王子;いつも死にたいと思ってる
ドーナッツ王子;世の中は退屈だから
ドーナッツ王子;頭はいい
ドーナッツ王子;頭は良すぎるんだ
ドーナッツ王子;だから






ドーナッツ王子;世の中が怖くなる





ドーナッツ王子;でも





ドーナッツ王子;そこが、マジョマジョちゃんの可愛いところだよ。













マジョマジョ;あなただれ


やっとそれだけ打てた。知ってる人?
でも、このハンドルネームを知ってる人なんてoffの世界にはいない。



ドーナッツ王子;僕?僕はドーナッツが好きな王子様さ
マジョマジョ;私の知ってる人でしょ?
ドーナッツ王子;今、知り合いになったのさ
マジョマジョ;なんで私のこと知ってるの?
ドーナッツ王子;知ってるんじゃない。分かるんだ。僕だけにね。


それだけ言うと、ドーナッツ王子は落ちていってしまった。


あれから一週間、あなたの事ばかり考えていた。
もしかして、私のことを分かってくれるのはあなただけなのかもしれない。
もっと、話がしたかった。
これは恋と言えるんだろうか?顔も見たことがないのに。声も聞いたこともないのに。


あなたの事ばかり考えている。


offの世界は私にとって虚だった。生きてる実感もなく、息苦しいだけだった。
このチャットを知って、私は初めて息が出来た。
このonの世界だけが私の住める場所。
初めて多くの友達を得ることが出来た。
初めて明るく話すことが出来た。
初めて楽しいと思った。
精神安定剤なしで、自律神経に乱れをきたすことなく喋れる世界。


でも、本当の私を知ったらどうなるんだろうとも考えていた。
そうしたら、別のチャットに移って友達を見つければいいだけか?
無尽蔵に人と出会える世界なのだから。
名前だって替え放題だ。
そんな中、あなたと出会った。
本当の私を分かってくれるあなた。


あなた あなた あなた あなた あなた あなた あなた あなた あなた 
本当の名前はなんていうの?





ガタン!!


offの世界で音がした。
?何……


ギラリ
光る包丁


知らない人


ダレ


ダレ


「やああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


布と肉が破ける


恐怖で痛さは感じなかった


「助けて……」
ひゅうひゅうと呼吸しながらか細い声で助けを呼んだ。
画面の友達は誰も気が付いてくれない。


roro;あ。みたみた!その映画!!ぎゃはははは
くまー;おいらもみたくま。キャベツ太郎が食べたくなったくま。
まりん;くまなのにキャベツ(w
ドーナッツ王子;僕はうまい棒が好き〜
まりん;ドーナッツ王子なのにうまい棒(w
roro;この間、うまい玉ってみたよお!!大笑
まりん;何それー??


殺されていく私の横で友達の笑い声が響いていた。



2004.10.18.
モノクロワールド
     モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。


今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。


検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。


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