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愛は不思議な夢を見た。







―婚約者ですの。


そのまどかの言葉に愛の視界はぐにゃりと歪んだ。よろめいたらしく優子が背中を支えてくれた。
うそよ。うそ。だって、昨日あんなにやさしく頭を撫でてくれたじゃない。手に口づけてくれたぬくもりまだ消えてないのに。
否定の言葉を期待して愛は駿をじっと見つめた。けれども、駿は困った顔をして目をそらした。
目の前が真っ暗になった気がした。
背後からクラスのみんなが驚きの声をあげ、まどかと駿を取り囲んだようだった。この騒ぎに隣のクラスの野次馬達も集まり、凄い数の人垣ができていた。
しばらくすると先生達がやって来て無理やりみんなを教室に押しやり、授業を始めた。


愛はまどかの方をちゃんと見れなかった。
愛の異変に気付いたのか、まどかは少し首をかしげ授業中だという事を気にしてか、小さな声で聞いてきた。
「愛様、お加減でも悪いのですか?お顔が真っ青ですわよ。」
真っ黒で真っ直ぐな髪がさらりと揺れた。私なんかのくせっ毛の茶色い髪とは全然違う。なんだか惨めになってきた。駿は本当は私なんか好きじゃなかったのかもしれない。ただ、適当な事を言って喜ぶ私を楽しんでいたのかもしれない。こんなに綺麗で上品な婚約者がいたんだもの。
愛はだんだんと嫌な想像をかきたてられ、心が乱れていった。目の前がぐらぐらする。眩暈を感じ、顔に手を当てた時、肩に温かな手が置かれた。


「先生。小宮山さんが気分が悪いそうなので、保健室にお連れしてもよろしいでしょうか?」
まどかだった。凛とした声で真っ直ぐに先生を見詰めていた。
「お…おう。大丈夫か?小宮山。すまんが保健委員連れていってやってくれ。」
先生が少し慌てたように言った。


「私が行きます。」
二人が同時に声をあげた。優子と…まどかだった。先生は一瞬びっくりしたような顔をして、
「まあ、いいか。じゃ、すまんが行ってくれ。」
と言った。


優子がさっとかけよって、肩を貸してくれた。まどかは何故か愛の手を握る。愛は、心配をしてくれるのは嬉しいが、少し、優子と二人にして欲しいと心の中で思った。





◆◆◆◆




保健室の先生は、素早く愛をベットに寝かせてくれた。
「顔色もよくないわね。昨日はちゃんと寝た?」
愛は顔を少しだけ横に振った。昨日はどきどきしてあまり眠れなかったのだ。あんなに逢えて嬉しかったのに、こんな事になるとは思わなかった。


保健室の先生はふうとため息をつきながら、布団をかけなおしてくれた。
「じゃあ、気分がよくなるまでゆっくり眠りなさい。」
シャッと白いカーテンをひかれ周りの空間とさえぎられた。カーテンの向こうで優子とまどかが宜しくお願いしますと言いながら部屋を出て行くのがわかった。
布団は少し固くって寝心地は悪かったが、愛は疲れていたのか眠りについた。




愛は不思議な夢を見た。


その世界は一面鏡張りで
何人もの愛が映し出されていた


愛は無我夢中で
その鏡を割っている
粉々に壊れる愛達


しかし
割っても割っても
鏡は多すぎるのか
無くならなかった


愛は泣きながら
その鏡を割っている
涙で見えなくなる愛達


急に
まばゆい光が
辺りを包む


そこには
愛ともう一人の愛がいた
もう一人の愛はにやりと
笑い近づいてくる


愛は逃げようとしたが
逃げられなかった
体が動かなかった


もう一人の愛が手を差し伸べ
愛の中に入ってきた


気がつくと愛は鏡の中に
閉じ込められていた


出して出して
声は鏡に吸収されて
誰にも届かなかった




はっと気がつくと、頬は涙で濡れていた。外では体育をしているのか、きゃあきゃあと楽しそうな声が聞こえる。焦点のあわない眼で天上を見つめていると、ふと人の気配がした。カーテンの向こうに人がいるようで、影だけが見えた。


「愛…起きてる?」
駿だ。愛はがばりと布団から起きあがった。慌てて涙をぬぐう。
「今さっきはごめん。突然でびっくりしただろう。」
駿のやさしい声が聞こえる。それだけで嬉しかった。
「婚約の事、おばあ様が急に決めたらしいんだ。僕は認めていないから。それだけ、言おうと思って。」
本当にそれだけ言って駿は外に出て行ってしまった。ぼろぼろと涙が流れる。何故顔を見せてくれない。何故あの時否定してくれなかった。嬉しさと悲しさが心の中で台風のように荒れ狂っていた。愛はどうしたらいいのか分からなかった。




◆◆◆◆




結局、教室に戻ったのは一日の授業が終わった後だった。人影もまばらだ。
教室に入ると優子が心配そうにやってきた。
「愛、もう大丈夫なの?しっかり休めた?」
愛は無言で弱々しくうなづいた。
「嘘ばっかり、顔がやつれてるわよ。」
優子はいつものようにおでこをコツンとつつくけど、少しゆるめにしてくれたような気がした。


「愛様。」
後ろから凛とした声がした。振り向くと厳しい表情をしたまどかが立っていた。
「あ…ありがとうね。保健室まで連れていってくれて。」
愛は言いながら、まどかの様子に戸惑いを覚えた。いままでの様子と全然違い冷たい。何か軽蔑の眼差しで見られているような気がした。愛が不思議に思っていると、ややあってまどかが口を開いた。


「駿様に近づかないでいただけます?駿様は私の婚約者なのですから。」
そんな言葉が出てくるとは思わなかったので、驚いてポカンと口を開けてしまった。
まどかはそれだけ言いたくて残っていたらしく、カバンを持って教室のドアを開けた。怒っていても静かに開ける。まるで感情なんか無いみたいに。やっぱり人形みたいだ。そう、場違いな事を思っていると、去り際にまどかが振り返って言った。
「そういうのを泥棒猫っていうんじゃありませんこと?」


音もなく静かにドアが閉まった。


残された愛はもごもごと口を動かすのが精一杯だった。




◆◆◆◆




まどかは下駄箱から靴を取り出していると、ちょっとと声をかけられた。振り向くと3人の女の方が立っていた。真ん中の女性のくるくるの縦巻きカールが風になびいている。


「校舎の裏に来てくれない?」


その女性は下品な笑いを浮かべながらそう言った。夏雲がゆったりと空を流れている。





2003.10.18. 第8話に続く
モノクロワールド
     モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。


今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。


検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。


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