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今夜のミステリー
星が頭上を埋め尽くしている。
まるで零れ落ちてきそうなほどに。
吐く息が白い。
指先は凍ってしまいそうだ。


「というか、ここって、どこよ?」


良美はがちがちと歯を鳴らしながら言った。
辺りは真っ暗で街灯すらない。
どこを歩いているのかさっぱり分からなかった。
道の両側には畑が広がっているようだ。


「しらねえよ。良美が勝手に降りたんでしょーが。」


町子は、ペットボトルを持ち上げグビリと飲んだ。
透明な液体が揺れる。
芋焼酎の匂いが良美の鼻をくすぐった。


「だって、気持ち悪くなったの。
電車の中で吐くとブレーキがきいた時に広がるのよ。
信じられない。」


良美はその時の記憶がよみがえりそうになり
頭を横におもいっきりふった。


確かに旅先で知らない駅に降りたのは悪いと思う。
しかも、最終電車だったのに。
でも、最終電車に乗ったのは
町子のせいだ。
宿のもより駅に着く前に
酒がきれたからとふらりと電車を降りて
飲み屋でずっと飲んでいたのだ。


「あーはっはっはっはっはーーー!!!」
と大笑いしながらすごいスピードで走る町子に
必死でついて駅まで行き、
最終電車に乗りこんだ。


さすがに良美も飲んで走ると酒が回った。
そして、1駅だけ進んで降りたのだ。
もう、良美はこの駅で宿を探して休みたかったが
町子はそうはいかなかった。


宿の亭主に自慢の酒を飲ませてもらう約束をしているのだそうだ。
頼み倒してやっと飲ませてもらう事になったらしい。
で、はるばるここまで来たらこの様だ。
タクシーすら通らない真っ暗な道を宿を目指して歩いている。
町子の酒のパワーは恐ろしく、酒のためならどんなに遠くとも道に迷わない。
これは何度も体験しているので心配はない。
ただ…


何時間歩けばいいのだろう


それだけが気がかりだった。


気が遠くなりかけた時、遥か遠くに灯りが見えた。
久々の街灯だった。
灯りは不思議だ。人を安心させてくれる。
良美は自然と早足になった。
だんだんと灯りが近づいて来る。
その下に早く辿り着きたかった。


あと、数十メートルという所で異変に気がついた。
街灯の光が届くか届かないかという所に
黒い物体があった。
ゴミだろうか?
良美はそう思いどんどん近づくと形がはっきりしてきた。


それは、
人だった。
うつ伏せになって倒れている人間。
その周りには同心円状に液体が広がっている。


        殺 人


その二文字が良美の頭の中にくっきりと浮かび上がった。
自分のさああっと酔いがさめる音が聞こえた。


「まままままままま…マティーーコ↑」
何故か良美はイタリアっ子になり町子の名前を呼ぶ。
振りかえると町子はあごに手をやり、目を細めて死体を見ていた。


「ふーむ。」
酒臭い真っ白な息を吐きながらゆっくりと目を閉じる。
襟のファーに顔が沈む。
「いやいやいや。そんなに冷静にならならなら。」
良美はへっぴり腰で、町子の白いロングコートのすそをつかむ。
足ががくがくする。


「この状況をどう解釈するかねぇ?ワァトォソォンくぅぅぅん!」
後半を町子は絶叫した。
どうして絶叫するのか分からない。
いや、そんな事より、もしかして、探偵気分?楽しんでる?
まさか


「だだだだだだって、ちちち血がこんなに広がってぇぇぇぇ。
死ぬでしょ?普通。」


「ふ。」


町子の口元が歪んだ。
やっぱり楽しんでる。
「あーはっはっはっは。」
町子は笑いながらつかつかと死体に歩み寄る。
この時ほど町子が怖いと思ったことはない。


ぐっと死体の襟首を持ち上げる。


「だめよぉぉぉぉぉ!!!
死体発見時には現場保存しなきゃあああ!!!」
良美は地面にへたり込み、絶叫した。


死体の頭がだらーーんとうなだれる。


その時


「うーん。もう飲めない…。」


死体から声がした。


………。


酔っぱらい?


「残りの牛乳さ。ベコにやってけれー。べこーー。」


「あーはっはっはっは!!」
町子の笑い声が星空にこだました。




■□■□■□■□■□■□■□





「えーーーー??それが僕なんですか??」
ここはいつもの部屋。
町子の部屋だ。


「そうよ。覚えてないの?ちびりそうになったんだから。」
良美が麦焼酎を飲みながら、僕のわきにけりを入れる。


「イテ。
で、町子さんは宿の親父さんと何を飲んだんですか?」


町子は腕立てふせをしていた。
というか、何分この人は腕立てふせをしているのだろう。
しかも、たまに片手で腕立てふせをしながら焼酎を飲んでいる。
顔は見えなかった。


「そりゃあ。
親父と俺との秘密さ。」


僕がその親父にちょっと嫉妬したのも秘密だ。


2003.12.21.
モノクロワールド
     モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。


今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。


検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。


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