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魔法使いは火星を食べる 前編
真っ暗な闇の中
オレンジ色の光がひときわ鮮やかに空に輝いている
真っ黒なローブが風になびいた
僕はじっとその光を見つめながら静かに深呼吸する
肩に乗った黒猫の目がきらりと光った
光に手をのばし魔法の言葉を唱える
光が……集まってきた……




魔法使いは火星を食べる






「おにーちゃん!昨日、真夜中に屋根に登ってごそごそしてたでしょ!!眠れなかったじゃない!!」
妹の夢々(”むむ”といいます。親の趣味です。変な名前っていつも思う。)は、おはようを言う前に開口一番そう言った。
最近生意気なのだ(´Д`;;)とほほ

僕は寝ぼけ眼でトーストをかじる。昨日は夜起きていたから寝不足で、眼鏡はずれてるし、髪は爆発してて最悪だ。くせっ毛なので、朝は大変だ。我侭な髪の毛をなだめるのに毎朝相当苦労する。

「真夜中に何してるんだ?」
新聞の向こうからお父さんの声がした。

魔法を使ってたんだ

声が喉まで出かかる。そう。僕は魔法使いなんだ。誰にも内緒なんだけどね。
オレンジジュースを一口飲んでから答える。

「火星を見てたんだ。ほら、今、大接近してるだろう。」
これか?と言って、お父さんは新聞をばさりと置いた。そこには、どこかの天文台で撮られた火星の写真が載っていた。真っぽい円形の物体に幾筋かの黒っぽい線が入っている。下のほうには白く輝く南極冠が見えた。

「へえ、こんなのが見えるんだ。私も見たい!」
夢々が身を乗り出して、新聞をのぞいた。僕はもそもそという。
「こんな風には見えないよ。肉眼だと、点くらいにしか見えないんだ。」
「じゃあ、顕微鏡で見ればこんな風に見えるんでしょ?」
僕はふうとため息をついた。
「顕微鏡じゃなくて、望遠鏡。正反対だよ。400倍くらいでも、ようやく表面の模様が分かるくらいしか見えないよ。」
「なあんだ。つまんないの。」
夢々は、がっかりした様子で向こうへ行ってしまった。

見れば綺麗なのに。
新聞に載る火星とは全然違うけど、赤く光る星はとても不思議だ。

まるで空の宝石

赤い宝石の光にはいっぱい魔力が詰まってる。
昨日の僕は、その力をいっぱい貯めこんだ。
今日の僕は、魔法の力が身体に充満している。


今日こそは
今日こそは、やってやる

ピンポーン

チャイムが鳴った。
キタ━━━━━━(゚д゚)━━━━━━ !!!!!

とたんに夢々が嬉しそうに玄関に向かう。
「おはよう!」
僕にはかけてくれなかった朝の挨拶を奴にしている。


くそう

玄関にいるらしいアイツに向かって、心の中で毒づく。
夢々には、ボーイフレンドができたのだ。
小学生のくせに。
いっちょまえに髪にはリボンをつけてお洒落して、毎朝一緒に学校へ行くのだ。
今日は日曜日なのでデートらしい。

よし!尾行開始だ!

……って、髪を直してないよ!ああ!行っちゃう!

僕は最終兵器のじぃちゃん帽(一般にはスキー帽というのかもしれない。)をかぶって、髪の毛を押さえた。




よれよれの制服に眼鏡―そして、じぃちゃん帽。
その格好で、路地に隠れる。しゃがみ、顔を半分出して夢々達の様子をうかがっていると、おいと声をかけられた。
横目でちらりと見ると下僕猫のシオンが座ってこちらを向いていた。

お前、またこんな事してんのか?この間だって、妹にばれて叱られたばかりだろう。

そう(・ω・)しょぼぼーん
思い出して、一気に落ちこんでしまった。夢々に”馬鹿・嫌い”とまで言われてしまったのだ。
そりゃ、黙って後ろをずっとついていった僕も悪かったかもしれないけれど……。

「今日は隠れてるから大丈夫だい。」
シオンにそう言って、尾行を続けた。

制服だと目立つんじゃねーか?

シオンは少し口うるさい。
色々と指摘された。でも、制服は落ちつくから好きなんだ。たまに、寝巻きも制服にしてしまいたくなる。そうしたら、起きて着替えずに学校へ行ける。なんてすばらしい発想なんだろう。そう思って、お母さんに言ったら怒られた。何故なのか分からない。とりあえず今日は朝が早そうなので制服で寝た。




そんな事はともかく

今日の夢々の格好は(・∀・)イイ!

あんなワンピースははじめて見たぞ。
似合うぞ、夢々。可愛いぞ、夢々。素敵だぞ、夢々。
シオンがバーカと言ったが気にしない。




電柱の影や、門に隠れながら進んでいく。
それにしても、何処に行くんだろう。
財布には183円しかないので、遊園地なんかに行かれたらお手上げだ。

こんな時、ゲームとか漫画に出てくる魔法使いだったら、
空飛んだり瞬間移動とかして、お金を払わずにはいれるんだろうけど、
僕はそんな事は出来ない。

というか、本来の魔法は外の世界では何も作用していないようにしか見えない。
それじゃ、意味ないじゃないかと言われるかもしれないが、本当の事なのだ。




僕も、師匠に一度聞いた事がある。

師匠は、週3回教えてくれる。一ヶ月の月謝は300円だ。
本当は、他の人は500円なんだけど他に人がいないから特別に安くしてくれてるらしい。お得だ。
みんなに(親にも)習ってる事は内緒にしないといけないのがつらいけど。

師匠は真っ白なひげを50cmくらいのばしていて仙人のような人で、
僕の近所の3丁目の山田さんちの隣に一人で住んでいる。

僕は、最初の頃はゲームで出てくる魔法使いのようにかっこよい魔法が使いたかった。
毎日毎日修行して、動物の言葉くらいは分かるようになった。
さわさわと風をふかせる事くらいは出来るようになった。
だけど、ゲームのような魔法はまだまだ出来なかった。

「いつになったら、稲妻を落とせるようになるのですか?」
ある日、我慢できなくなって師匠に尋ねた。

「んー。そんなことできないんじゃない?」
師匠はひげを撫でながら、のんきに言った。

ΣΣ(゚д゚|||)がぁぁぁぁん インドジンモビクーリヨ

今までの修行は何だったのだ!?
僕は愕然とした。しかも、できない”んじゃない?”と疑問形。
どうなんだ!はっきりしてくれ!

もう辞めてしまおうかとも思ったが、安かったし、する事もなかったので今まで続けている。
今は、何となく魔法ってのが何なのか分かってきたような気がする。
上手く言葉ではあらわせられないんだけど。

魔法は可能性を引き出すお手伝いのようなもの

世界は確率で出来ていると思う

その確率を少しだけ変えることが出来るんだ

魔法を目で見ることは、肉眼で火星の模様を見ようとするぐらい分からないんだけど。
でも、それは今の火星みたいに輝いて見える
素敵な事なんだ。




って、ぼんやり考えてたら、夢々を見失ったYO。
大変だ((((゚д゚|||))))

ここに入ったぜ

シオンが尻尾で文具屋さんを指した。
おおさすが、我が下僕猫よ。

店の中では、仲良くノートを選んでいる。
無駄遣いしないか、心配になった。
僕は、お店に入ると何か買わなきゃいけないような気分になっていらないものまで買ってしまうのだ。
しかも、3個以上買わないと駄目なような気がする。


向こうからやってくるのは
いじめっ子のジャイ男
夢々が見つかったら大変だ!絶対ちょっかいを出してくるに決まってる。

僕は魔法を使うことにした。路地にそっと入る。


   | \
   |Д`) ダレモイナイ・・マホウスルナラ イマノウチ
   |⊂
   |


      ♪  Å
    ♪   / \   ランタ タン
      ヽ(´Д`;)ノ   ランタ タン
         (  へ)    ランタ ランタ
          く       タン



    ♪    Å
      ♪ / \   ランタ ランタ
      ヽ(;´Д`)ノ  ランタ タン
         (へ  )    ランタ タンタ
             >    タン

僕はジャイ男が夢々に気が付かないよう魔法のダンスを踊る。
ステップは、魔方陣を華麗に描く。

……どうやら、ジャイ男は夢々に気が付かないで通りすぎたようだ。
ふう。僕はひと魔法終えて、手のひらで額の汗を拭いた。

よし夢々を守ったぞ。僕は妙な満足感に包まれていた。
シオンは、尾行に飽きたらしくまだ続けるのかよとぼやいている。

尾行は……まだ始まったばかりだ!


2003.8.26. つづく
モノクロワールド
     モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。


今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。


検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。


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