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赤……それは燃えるような赤い色で

私は激しく沸き起こる感情に抗うことも出来なかった。







しとしとと雨が降っている。雨は朝から降っていて、止む気配は一向になかった。
「今日は一日中雨かあ。」
高校2年生の小宮山 愛は、ぼんやりと教室の外を見ながらそっと呟く。今は英語の授業中だ。先生が黒板いっぱいに板書している。
生徒が一生懸命にそれを書き写している。これが何になるというのだろう。良い大学に行くためか?それとも将来役に立つというのか?最近、学校が色あせて見えた。あれだけ頑張って入った高校なのに……。やる気が起きないのだ。何をしていても集中力が続かない。だるくてめんどうくさい。全てが鬱陶しかった。
「小宮山、何ぼうっとしてるんだ!」
ぼんやりと外を見つづけている愛は叱責された。はっとして、ノートをあわててとる。くすくすとクラスメイトの笑い声が聞こえる。愛は顔が熱くなった。

◆◆◆◆

「さっきはどうしたのよ。」
親友の優子が休み時間になるとやってきた。優子は勉強もスポーツもよくできる優等生だ。生徒会にも入っている。何も出来ない愛は何故親友になってくれているのか不思議だった。優子の腰まで伸びたさらさらの黒髪が揺れる。甘いいい香りが鼻をくすぐった。
「ううん、雨が止まないなあって思ってたら注意されちゃった。今さっきのノート見せてくれる?」
手を合わせて愛は困った顔をした。
優子は仕方がないなーと笑いながら言い、ノートをとりに行ってくれた。

教室は、みんなの笑い声で満ち溢れていた。なんでこんなにみんな楽しそうなんだろう。何が楽しいのだろう。教室を見渡しながら、”ふう”とため息をついた。とたんに愛のおさげが引っ張られた。
「痛い!」
引っ張られた方向を見るとダイちゃんがいた。遠山 大吾―あいの住んでいる家のお隣さんだ。小さい頃から良く遊んでいた。一つ上の3年生だ。
「何ため息ついてるんだよ。」
「いいじゃない。ため息くらい。」
頭をさすりながら愛は頬を脹らました。そんなことはお構いなしにダイちゃんは窓から身を乗り出して愛に話しかける。
「前から言ってたの、今日どう?」
なんだっけ?愛が分からずにいると後ろから声がした。
「ああ。写真のモデル?」
優子だった。ブルーのチェックのノートを持っている。そのノートをおいて愛の首もとに腕を絡ました。
「だめよ。今日は愛にカフェでケーキおごってもらうんだから。」
優子の冷たい頬が愛の耳もとのあたる。
「ちょっと、苦しいって。ケーキって何よ。もしかして、このノート代!?」
「そーよ。今日、生徒会何もないんだもん。もちろんお茶してくれるわよね。」
優子はぎゅうっと腕に力を入れる。くるしい。
「分かった。分かった。分かったからやめてよ―。」
愛は手をバタバタした。
「ということで、今日はダメよ。」
すっと、腕をはずしダイちゃんに優子は勝ち誇ったように言った。
「ちぇ。じゃあ、明日はどうなのさ。丁度、土曜日だし。」
愛がなんと言おうか迷っているとチャイムが鳴った。
「やべっ!じゃあ、明日なー!!」
愛の返答を聞かずにダイちゃんは自分の教室に帰ってしまった。
断わろうと思ってたのに……。愛は親指の爪を齧った。
だいたいモデルなんて優子の方がいいような気がする。スタイルも容姿も優子は素敵だった。すらっと伸びた背。大きな目。私なんて……そう思いながら、今度は注意されないようみんなと同じようにノートに黒板の文字を書き写していた。

◆◆◆◆

「疲れたー。さあ、行くわよ。この間、可愛いカフェ見つけたのよ。」
優子が、楽しそうに箒をしまいながら言う。放課後は、みんなそわそわと部活に行ったり、遊びに行っている。休み時間とは違ったざわめきがあった。
「何処にあるの?」
「学校の近くよ。すぐそこだけど、ちょっと見つけにくい所にあって、隠れ家的なの。」
「良く見つけたね。」
よしよしと愛は優子の頭をなでた。

◆◆◆◆

カフェは本当にこじんまりとした裏通りにあり、見つけた優子は本当にスゴイと思った。
ケーキと紅茶を頼む。と簡単に言ったけど、ケーキも紅茶も何種類もあって、2人は時間をかけて選んだ。
今日の先生の面白かった所とか、最近のドラマの話とか、いろんな話をしているとあっという間に時間が過ぎた。
ケーキも紅茶も最高に美味しかった。愛が紅茶にたっぷりとミルクを入れると優子はとっても楽しそうにけらけらと笑った。
「匂いが消えちゃうじゃない。美味しい紅茶は純粋にちょっとの砂糖くらいでいいのよ。」
すうっと、紅茶の香りをかいで優子は目を細めた。
愛はたっぷりとミルクと砂糖を入れた甘いミルクティーが大好きだ。ミルクの甘い匂いがする。確かに紅茶の香りじゃないかもしれない。でも、美味しいんだけどなあ……優子の細くて長い綺麗な指を見ながらこくりとミルクティーを飲んだ。
こうしてみると2人は正反対のように見える。私は甘い物とか可愛い物とかちょっと子供っぽい物が好きだけど、優子はあまり砂糖は好きじゃないし黒の服とか良く着る。うーん。単に私が子供なだけなんだろうか。そのうち、優子みたいに大人っぽくなるのかしらん。愛は左手を頬に当てて、ほう…とため息をついた。
「あ、またため息ついてるな。幸せが逃げちゃうぞ。」
優子が人差し指でこつんと愛のおでこをつついた。そして、顔を近づけてそっと耳打ちした。

「愛、恋してるでしょ。」

空白。
「なんでよ。そんなことないもん!」
思わず顔が赤くなる。
「ほら、赤くなった。あやしー。」
優子が嬉しそうに言う。
「急に変なこと言うからでしょ。好きな人すら出来たことないのに。」
「ホントにー?」
愛の目を覗き込んで言う。
「優子に隠し事するわけないでしょ。出来たら一番に言うわよ。」
まっすぐな優子の目に負け、目をつむって愛は手をひらひらさせながら言った。
「なーんだ。残念。」
本当に残念そうに優子は紅茶の残りをぐっと飲んだ。
「最近の愛、心ここにあらずって感じで絶対恋してると思ったのになあ。」
「残念でした。というか、恋って何?て、感じ。」
「もう!子供なんだから。」
くすくすと優子は笑った。
「好きな人なんか出来るのかなあ。なんだか不思議な感じ。私、恋できない人なのかもしれない。」
「そんなことないわよ。まだめぐり合ってないだけよ。それとも、気がついてないだけかも。」
「……?気がついてないだけ……?」
「ダイちゃん。」
真剣な顔して優子が言った。
「ぷっ。」
思わず愛は吹き出してしまった。笑うことないじゃないといった顔をして優子が言う。
「だって、お似合いだよ。愛は気がついてないかもしれないけど、ダイちゃんは結構愛のこと気にしてるかもね。」
「ただのお隣さんの幼なじみだよ。」
けらけらと愛は笑い出してしまった。ダイちゃんと恋愛!?想像つかなくて面白すぎる。

「ねえ。優子、恋するってどんな感じ?」
むくれてる優子に愛はふと口をついて言った。愛にはまるで想像つかなかった。小説や漫画を色々読むけど、現実にはそんなロマンチックな出来事も人もいなかった。男子は、ゲームやテレビの話題に夢中で、子供っぽくてなんだか違う世界の住人のようだった。
たまにダイちゃんのように話が合う人もいるけどそれでも、恋愛とは程遠いような気がする。一緒にいたら楽しいんだけど、これは恋とは違うような気がする。単なる友達だ。

「そうねえ。姿を見たら、どきどきして心臓が苦しくなって、切なくなるの。一言だけ話したい。ううん……一目だけでもいいから目があって欲しい。」

優子はつと目を窓の外に向けた。優子にはある噂があった。
先生と恋愛している。
その先生は若い先生で女子生徒にも人気がある先生で、授業も上手だった。よく質問に優子が行っている所を見たことがある。二人で授業の準備をしていたこともある。噂が大きくなってしまったせいか、その先生は愛たちの学年から外れてしまった。
噂は噂だと思っていたが、案外本当のことかもしれない。優子の横顔を見ながら愛は思った。

「何だか大変そう。それって楽しいの?」
思わず愛は呟いてしまった。優子はこっちをちらりと見て、にこりと笑って言った。
「恋なんて辛いことばかりよ。辛くて切なくて歯がゆくて。でもね。」
手元においてあった水を飲む。氷はもう溶けてなくなっていた。ぽたりとコップについた滴が机に落ちる。

「そのドキドキやヒリヒリが恋愛特有の楽しさなのよ。」
雨雲が途切れ日が射した。日が当たって優子はきらきら光っていた。目が涙で潤んでいるようだった。


会計を済ませてお店を出るときには、雨はすっかりあがっていた。
「あ!」
胸元を押さえて愛が声をあげた。
「どうしたの?」
心配そうに優子が尋ねる。

「ネックレスがなくなってるの。」
愛は祖母からもらったネックレスをずっと身につけていた。祖母が祖父に出会った時に身につけていたというロマンチックな代物を愛がもらったのだ。ロマンチックな出会いがあるような気がして付けていたのだが、それがなくなるとはよほど恋愛運もないのかもしれない。愛は落ちこんだ。
「え?美術の時間には付けてたじゃない。美術室で落としたのかもよ。」
そう言われると美術の時間に確かチャリーンと妙な音がした気がする。その時は周りを見渡しても何もなかったのだが、よく探したらあるのかもしれない。
「私、ちょっと美術室に行ってくる!」
愛は、駆け出していた。
真っ赤な夕焼け雲が空一面広がっていた。

◆◆◆◆◆

夕焼けが不気味なほど真っ赤に世界を染めていた。白い校舎は赤と黒の世界だった。
「おいてかないでよ。私も付き合うわよ。探し物くらい。」
優子が追いついてきた。愛は、何だか胸騒ぎがしていた。何だろうこの胸のざわめきは。
自然と早足になる。

ドアを空けると一人の男子がいた。
窓に背をもたれかけている。
真っ赤に染まっていた。
髪も肌も服も。
手に

「私のネックレス。」
男子はネックレスを持ってじっと見ていた。
ちょっと躊躇してから男子の近づく。

静物画のための百合が半分萎れていた。その下に蛾が一匹死んでいた。
百合の甘ったるい香りがした。

「それ、私のなんです。」
勇気を出して愛が言うとその男は顔を上げた。逆行でよく見えない。
「!……!!」
男はびっくりしたようで、何かを喋った。こっちへ来る。
愛は怖くなって後ずさった。
「なんで……生きて……どうして……!!!」
男はそう呟いていた。
ドン。愛は棚にぶつかった。

「愛!!危なっ……」
優子の声がした。それからはスローモーションのように見えた。上を見ると白い彫刻のカエサルが落ちてきていた。声を出す間はなかった。

ゴッ!!!!
ガシャーン!!!

優子の悲鳴が聞こえた。
身体に痛みが走る。

……?身体の上に温かな重みがあった。
目を開けると、愛は倒れていた。その上には、愛をかばって男が覆い被さっていた。
男の熱い息が顔にかかる。男の目は見開かれて愛の顔を凝視していた。

男の額から一筋の血が顔を伝った。
そして、愛の頬に生暖かい体温と共に落ちてきた。
それを合図にするかのように男の頭から血があふれてくる。
血は赤を凝縮したかのような黒色に見えた。
赤と黒に彩られた顔はとても……とても……

綺麗

そう愛は思った。

赤……それは燃えるような赤い色で
私は激しく沸き起こる感情に抗うことも出来なかった。

そうこれが恋なんだ。
男の顔から目をはずすことが出来なかった。

2人は見詰め合っていた。
赤く染まる夕焼けの元



2003.7.8.第2話に続く
モノクロワールド
     モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。


今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。


検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。


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