red4
雷鳴はだんだんと遠くへ行ってしまった。
がらっ
病室のドアが開く。白髪の上品そうな婦人が入ってきた。
「駿さん。お花の水を換えましたよ。綺麗な百合の花……。」
「お邪魔しています。」
愛がお辞儀をした。愛の顔を見たとたんにその婦人は真っ青になる。
また変だ。真鍋君も最初に会ったとき愛の顔を見たとたんに様子がおかしくなった。何かあるのか？愛の疑問をさえぎるように、真鍋君が早口で言った。
「小宮山 愛さんって言うんだ。同じ学校の人。」
婦人は少し目を見開き驚いた表情をした。それから、はっと気付きにこやかに微笑んだ。
「ごめんなさいね。あなたにちょっと似た人を知っていたものだから。……私は駿の祖母です。お見舞いありがとうございます。まったく引っ越してきたばかりなのに、この子ったら滑って転んでこんな大怪我するなんて運のない子ね。」
思わず真鍋君の顔を見る。嘘をついてくれていたんだ……愛は少し嬉しくなってしまった。それに、知り合いに似た人がいるから、驚いた顔をしたのか。心の片隅で少し驚き過ぎのような気もしたが、愛はかばってくれたことが嬉しくて、そんな事は小さな事のように思えた。
「これ。お見舞いに持ってきたんです。」
愛は、薔薇の花束を差し出した。手から、ペンダントが滑り落ちる。
チャリーン
銀色のネックレスが床に派手な音を立てて落ちた。
「あ、すみません。」
真鍋君の祖母が拾ってくれた。まじまじとペンダントを見つめる。ややあって真鍋君の祖母は口を開いた。
「これは……あなたの？」
「はい、そうですけど。私の祖母にもらったんです。どうかしたんですか？」
「小宮山さんっておっしゃったわね……。」
「……はい。」
どんどん婦人の顔が青ざめていった。愛にペンダントを手渡すと、さっきとは打って変わった冷たい表情で言う。
「出ていってください。この子……いえ、真鍋家には今後一切近づかないで頂戴。」
愛は婦人に廊下まで押しやられて、ドアをぴしゃりと閉められる。
「どういうことですか！？なんで急に！！」
ドア越しに問い掛けたが、答えてはくれなかった。そばにいた看護婦さんが静かにと、愛をたしなめる。
「真鍋君……。」
愛は開かないドアに向かって呟いた。
◆◆◆◆
しゅん……しゅーん……
草原に小さな少女が立っていた。ふわふわの髪は日に透けて茶色に見える。
ココハ……？
駿は空に浮いていた。
……しゅん……
ダレダッケ？ボクノ ナマエヲ ヨンデイル。
じたばたと手足を動かしたが上手く動けなかった。少女の顔が見えない。
見えないけれど、明るい笑顔でこっちに走って来るのが分かる。
ボクハ アノコヲ ヨクシッテイル
思い出してはいけないと頭の奥の方で警鐘が鳴っていた。
ダレダッケ？
走ってくる少女の手足が一歩踏み出すごとにすらりと伸びていった。
……駿……
息を弾ませた少女に羽が生えてこちらまで飛んできた。
ふわふわの髪。大きな目。艶やかなさくらんぼみたいな唇。白い肌はうっすらと上気している。
赤い唇はよく見るとぬめぬめと光っていた。まるで、血を塗ったみたいな……
ア
駿は思い出した。その瞬間にバンと大きな音がした。目の前の少女が急に重力にとらわれる。
地面に落ちた少女の背中から血がどくどくと出て、真っ赤になった。世界が赤くなる。
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
ガバッと駿はベットから飛び起きた。
「夢か……。」
まだ外は暗く月の光が優しく射している。駿は、汗をびっしょりかいていた。
月明かりに照らされて、ごみ箱に捨てられた薔薇の花があった。じっと、駿はそれを見つめる。目から大粒の涙が流れ出てきた。
「どうして……。」
誰に向けて発したものか自分でも分からなかった。自分の中に整理できない物がありすぎて、駿は混乱していた。
声を押し殺して泣いた。涙はあとからあとから枯れることはなく頬を伝った。
月だけが優しく見守ってくれていた。
2003.7.17.第5話に続く
モノクロワールド
モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。
今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。
検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。
→モノクロワールドもくじにもどる
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。
今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。
検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。
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