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運命だと思うの。

このペンダントは、私にも運命の人と逢わせてくれたのかもしれない。






「でね、日曜日も会いに行ったんだけど、そのおばあさんがいて逢わせてもらえなかったの。」
愛は、ぼろぼろと泣きながらお弁当を食べた。ここは、学校の屋上。昼休みに優子とお弁当を食べていたのだが、真鍋君の話になって愛は泣き出してしまった。でも、しっかりとお弁当は握り締めている。

「それにしても、何だか変ねえ。愛の顔を見たとたんに様子がおかしくなったり、ペンダントを見たとたんに追い出されたり。」
優子は、アスパラベーコン巻きをほおばりながら言った。
「そうなんだよね。あ、この卵焼きとウインナー交換しようよ。……ありがと。そういえば、私あんまり真鍋君の事知らない。」
優子は心配そうな顔で言う。
「愛……もしかして、脅されてるんじゃないんでしょうね。」
「脅されてる?」
「真鍋君に。怪我させたんだから付き合えって。愛、可愛いから。」
愛は、涙目のままプーっと吹き出した。
「そんなんじゃないよ。真鍋君はそんな人じゃないよ。」
「でも、よく知らないんでしょう。大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。」
自身たっぷりに愛は頷いた。
「よく知らないくせにー。」
優子は、こつんとおでこをつついた。

愛は、お弁当を側に置き、ペンダントをつまんで見つめながら言った。
「運命だと思うの。最初見たときにビビビってきたの。あ、この人が運命の人だって。」
赤い世界。初めて2人がみつめあったとき何かが変わった。

「これ、おばあちゃんが着けてた時に、おじいちゃんに逢ったんだって。その時も、おばあちゃんは運命だって言ってた。このペンダントは、私にも運命の人と逢わせてくれたのかもしれない。」

優子も、ペンダントを見ながら言う。
「運命ね……そんなものあるのかしら。」
ペンダントはきらきらと光った。

優子はお弁当を食べ終わり、ふたを閉めながら言った。
「ま、何はともあれ愛に恋人ができてよかったわ。」
恋人と聞いて、愛は赤くなった。何だかこそばゆい。

「じゃ、私、生徒会に行くから。」
優子はすっと立って、すたすたと行ってしまった。

恋人……かあ。愛は真っ青な空を眺めた。梅雨はこの間の雷で、どこかへ行ってしまったようだ。

ふと、屋上を出ていく時、優子は愛の方を振り向いた。愛は、空を見てぼうっとしている。
優子は、愛が見たこともないような冷たい目をしていた。愛は、気がつかない。
優子は、そのまま屋上を後にした。足音が階段にこだましていた。




空は、晴れててちょっと暑いくらいだ。愛の他に誰もいなくなってしまった。早く食べて、教室に帰ろう。そう思い、愛は急いでお弁当を食べた。お弁当のふたを閉めると、3人の女子が屋上にやってきた。
「あ、いたよ!」
「ホントだ。」
こそこそと言いながら、こっちにやってくる。何か用なのだろうか?顔は見たことがあるけれど、名前は知らない人達だった。確か、同学年の人達だ。愛は、あまり積極的に人と接する性格ではなかったので、そんなに人の名前を覚えない。クラスでも、何人かあやうい人がいる。よく話すのは親友の優子だけで、クラスでもそんなに話さなかった。

「小宮山 愛さんよね。」
背の高い、ひょろっとした女の子が愛に話しかけてきた。おもったより声が高い。
「そう……ですけど。」
おそるおそる愛は頷いた。見下ろされるのはちょっと怖かったので立ち上がった。

「あんた、この間転校してきた真鍋君に怪我させたでしょ。」
小太りの背の低い女の子が今度は言った。どんと肩を叩いた。痛い。
「どうなのよ!何とか言いなさいよ。」
「そーよ!そーよ!」
背の高いのと小太りのが、畳み掛ける。喋る暇がない。

「そんなに言ったら、小宮山さんが喋れないじゃない。」
真ん中にいた女の子が言った。ロングヘアーで、くるくると縦巻きカールした茶髪が風になびいた。美人だ。色っぽい顔をしている。小指をぽったりとした唇に当て、喋る。
「で、怪我させたの?」
目は険しかった。

愛は無意識にごくりとつばを飲みこんで、言った。声が震えている。
「私の上に石膏像が落ちてきたのをかばって怪我したの……。」
背の高いのと小太りのがやっぱりと口々に言った。
「お見舞いにも行ったんですって。」
真ん中の女が言う。何処で知ったんだろう。愛は何も言わず頷いた。
「ずーずーしいんだよ!」
そう言って、小太りの女にまた肩を押される。愛はしりもちをついた。したたかに腰を打ちつけた。痣になっているかもしれない。

美人の女が、愛の顔に近づいて言った。
「真鍋君ね。私が先に目をつけたの。邪魔しないでくれる?小宮山 愛さん。」
長く伸びた爪が愛の頬を伝わる。あごの所に来たとき、がりっと引っかかれた。
「っ!!」
愛は、声にならない悲鳴を上げた。

「今度、でしゃばったらこんなもんじゃないからね!」
背の高い女がそう言って、3人は笑いながら屋上から出て行った。
あまりに突然のことだったので、愛は呆然としてしばらく動けなかった。引っかかれた所がヒリヒリした。


◆◆◆◆


鏡で見ると、赤くなってちょっと血がにじんでいた。あの3人は何だったのだろう。真鍋君と同じクラスの人だろうか?愛が真鍋君と付き合ってることを知ったら……背中がぞわぞわと寒くなった。

真鍋君のお見舞いに行ったら、あの3人はまた来るんだろうか?愛は憂鬱になった。真鍋君の顔が思い浮かんだ。やっぱり逢いたい。昨日も逢えてないんだもん。愛は、カバンを握り締めて病院に行こうとした。とたんに、おさげを引っ張られた。

「痛っ!」
見るとダイちゃんだった。
「なんで、おさげにしてるんだよー。土曜日みたいに下ろせばいいのに。」
口を尖らせている。
「あれは、真奈美さんがセットしてくれたからだよ。自分じゃ上手くいかないもん!」
愛は、この天然パーマの髪が好きでなかった。小学校のころ、この髪のせいでいじめられたこともある。だから、学校で髪を下ろす気にはならなかった。
「ちょっと、用事があるから。」
愛は、大吾の横を通りぬけようとした。
「待てよ!」
大吾は愛の肩を掴んだ。今日は強引だ。いつもと何かが違った。

「あ……ごめん。いや、その、ほら、モデルのお礼になんかおごろうと思ってさ。」
「おごってくれるの!?いやーん、チョーうれしー!」
と言ったのは、優子だった。いつの間にか愛の後ろに来ていた。

「ってね。喜ばなきゃ、愛!せっかくおごってもらえるんだから、しっかりたかりなさいよ。」
背中をぐりぐり押される。今日は暴力ディなのかもしれない。とほほと愛は心の中で嘆いた。
「優子は?一緒に行かない?」
愛は後ろを向きながら言った。大吾があわてて言う。
「え、優子ちゃんの分まではちょっと……。」
「御心配なく。私は生徒会です。」
笑いながら優子は行ってしまった。なんとなく大吾について行かなくてはいけないような雰囲気になってしまった。

「じゃあ、行こうか。」
大吾は嬉しそうに言った。うきうきしている。
「う……うん。」
しかたなく、愛はついていくことにした。

玄関を出て、壁際を歩いていると、ヒュッと何かが頭をかすめた。直後にガシャン!とすごい音がした。足元には、植木鉢があった。こなごなに砕けている。
愛はぞっとした。
これが頭に当たったら……
死んでいる。

「誰だ!!あぶねーだろ!!」
上に向かって大吾は叫んだ。3階の窓が開いているのかカーテンがふわりと揺れたのが見えた。窓際には花を置くようなスペースはない。誰かが落としたのだ。愛を殺そうとして。愛の足はがくがくと震えた。思わずしゃがみこむ。『今度、でしゃばったらこんなもんじゃないからね!』昼間の3人組の声が頭の中で鳴り響いていた。


◆◆◆◆


「そんな顔するなよ。」
大吾は困った顔をしながら言った。
「まあ、そんな事言っても、あんなことあった後じゃ仕方ないよな。」

あの後、先生の所に行って事情を話して調べてもらったが、犯人は分からなかった。あの3人が頭をかすめないでもなかったが、証拠もないので愛は誰にも言わなかった。たちの悪いいたずらだろうとすまされてしまった。

「あんなに簡単にすませて、先生も怠慢だよな。」
怒った顔をして、大吾は言った。そして、紅茶を飲んだ。

今は、駅前のカフェにいる。ここのケーキがクリームたっぷりで美味しそうなのだ。内装もおしゃれだ。大吾はお礼に服を買ってあげようと言った。それは、丁重に断わった。女の子の服を甘く見ていると思ったからだ。大吾は服は母親が買うか、アウトレットでしか買わない。きっと、服なんて1000円くらいか高くても5000円くらいだと思っているだろう。この間から欲しいスカートは1万2000円だと言うと、大吾は青くなっていた。もしかしたら、1200円でも青くなったかもしれない。

フルーツたっぷりのケーキをほおばりながら、愛はくすりと笑った。
「何だよ。今度は一人で笑いやがって。」
大吾はそう言いながらも、愛が笑ったことにほっとしたようだった。愛は、もう立ち直っていた。いや、あまりにも日常からかけ離れていて実感が沸かなかったのかもしれない。不安感はそれほど残っていなかった。今度、優子と来よう。愛はしっかりとお店をチェックした。

「あ、写真出来たんだ。自信作だったからすぐ現像したんだ。いい出来だぜ。」
ばさりと写真を広げた。
そこには、愛が幸せそうに微笑んでいる写真があった。ずいぶん昔のような気がするけど、おとといのことなのだ。
「へー。美人に写ってるね。さすがダイちゃん。」
「自分で言うなって。やるよ、それ。」
「わぁ。ありがとう。」
遠慮なくいただいた。お父さんとお母さんに見せよう。こんなに綺麗に撮れていたからびっくりするかもしれない。

「それでさ、文化祭に出そうと思ってたんだけど。……コンクールに出してもいいかな。」
愛はぽかんとした。
「いや、こんなにいい出来になると思ってなかったからさ。それに、卒業記念にさ。」
大吾は、あたふたと答えた。
「……うん。いいよ。ちょっと恥ずかしいけど。」
と、愛ははにかんだ。

少しの間、沈黙が訪れた。
ややあって愛が口を開いた。
「そういえば、ダイちゃんと2人でどこかへ行くのって久しぶりだね。」
そういいながら、愛はミルクたっぷりの紅茶を飲む。甘い。砂糖を入れすぎたかも。
「そうだな。ちっちゃい頃はよく遊んだよな。泊まりに来て一緒に寝たり。」
「なかなか寝なくて、おばちゃんに怒られたよね。」
2人は昔のことを話し合った。キャンプに行ったこと、海に行ったこと……話しはつきることがなかった。

ふと思いついたように愛は言った。
「そういえば、内緒なんだけど。」
「なに?内緒?」
興味深々で話しに聞き入る。

「私、彼氏が出来たの。」

幸せそうな顔をして愛は言った。
とたんに大吾の顔は凍りついた。
真鍋君の話に夢中になっている愛はその変化に気がつかなかった。金曜の出会いから、今日の昼に起こったことまで全部話した。話し終えてから、大吾が怖い顔をしていることに気がついた。

「ダイちゃん?」

「……行こう。」
「え…?」
「そいつに会いに行こう。どんな奴か見てやる!」
大吾は勢いよく立ち上がったので、椅子が派手な音を立てて倒れた。客が全員こっちを向いた。


◆◆◆◆


バスを2人は降りる。

「どうしたの?ダイちゃん?」
愛は、驚いているようだった。大吾はそんな事お構いなしに、どんどん歩いてやった。頭にきていた。なんでそんな急に来た転校生なんかに愛を渡さなきゃいけないんだ。 だいたい石膏像が落ちてきたのだって、そいつが急に迫ってきて驚かしたのが悪いんじゃねーか。大吾はぶつぶつ独り言を言った。

2人は早足で真鍋君が入院している病院に向かって行った。

「私、来るなって言われてるんだけど。」
困った顔で愛は言った。まったくおかしな話しだ。大吾は余計に腹がたった。もしかすると、何を言われても腹がたつのかもしれないが。

「ここだな。」
とうとう病室の前まで来てしまった。大吾はノックもせずにガラッとドアを開けた。女の子が3人いた。女の子を見たとたん、愛は、青くなって走って行ってしまった。

ベットには男の子が座っていた。

まるで、ギリシャ彫刻みたいだ。

色素の薄い真っ直ぐな髪。彫りの深い顔。切れ長の鋭い目。白い肌。

男でも見とれてしまうくらいの美形だった。

「どなたですか?」
ベットの少年は言った。声も、透き通った綺麗な声だ。
「間違えました。」
ガラッとドアを閉めた。
愛が惚れるのも無理ないかもしれない。
大吾はがくっと首をうなだれた。



2003.7.17.第6話に続く
モノクロワールド
     モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。


今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。


検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。


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