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なんで、あなたは目の前にあらわれたのだろう。







ぽちゃーん

愛は、お風呂に入っていた。ぶくぶくと目の下まで沈み込み、今日のことを考える。
色々なことがあった。

三人組みの女子―爪で引っかかれた所がまだヒリヒリする。真鍋君の病室で見たのはあの三人組だった。おもわず愛はその場から逃げ出してしまった。多分、愛の姿は見られてないと思うんだけど……。 息が苦しくなって、ぷはぁとお湯から顔を上げた。
空気が美味しい。

植木鉢―そのことを思い出して愛は温まった身体が一気に寒くなった。自分の手で肩を抱き寄せる。ぞくぞくする。誰なのか見当もつかなかった。あの三人組かもしれないけれど、直感的に違うと頭の中で誰かが答えた。―じゃあ、誰なの?他にも、真鍋君のファンがいるのだろうか。

はあ……愛は深いため息をついた。真鍋君に逢いたい。

ぽちゃーん

滴が純粋な音を立てて、落ちた。
愛は、悪い考えを振り払うように頭を横に2、3度振り、お湯から上がった。


◆◆◆◆


あれから1週間は何事もなく過ぎた。静かな、いつもどうりの一週間だった。だが、真鍋君には逢えずじまいだった。病室では、おばあさんか、あの三人組がいて近づけなかった。しかも、何日か通うと看護婦さんたちにストーカーと間違えられて、病院さえも入らせてもらえなかった。この時ばかりは、悔しくて唇を血が出るくらい噛み締めた。涙が出た。

逢いたいよ……真鍋君。

愛は自分の部屋のカーテンを開けて空を見つめていた。空の低い位置に真っ赤な月がのぞいている。不気味な色だ。何だか不吉なことが起きそうな感じだった。

コツン

窓に何かがぶつかる音がした。
何……?下を見ると

真鍋君がいた。

うそ……夢かと思った。急に現実感が遠のいた。
手のひらをきゅっとつねる。
痛い。
夢じゃない。

愛は、無我夢中で外に出た。
頬が上気する。サンダルが片一方脱げた。そんな事気にせずに真鍋君の胸に飛び込んだ。
大粒の涙が、愛の目から次々と溢れ出した。

「逢い……たかった……。」

愛は、息も絶えだえにそれだけ言えた。暖かい体温が真鍋君から愛へと移る。

「僕も逢いたかったよ。」

耳元に優しくて心地よい声が聞こえた。そして、愛の頭を撫でながら言う。
「ずっと逢いたいと思ってた。おばあさまの事はごめん。何故あんな態度をとるのかは分からないんだ。」
暖かい手が心地よい。
「もう……大丈夫なの……?」
「うん、検査も終わって大丈夫だって。ありがとう。顔を上げて。」

愛は、おずおずと顔を上げた。赤い月の光が妖しく愛の顔を照らす。真鍋君の顔は逆光でまた見えなかった。何だか悲しそうな顔をしているような気がする。

暫くして、真鍋君が口を開いた。

「駿……って、言ってみて。」

真鍋君の意図するところが分からなかったが、愛は言われたとおりにした。
「?……駿……。」
それを聞くと真鍋君は気持ちを静めるように深呼吸をした。

「……これからは、そう呼んで。」

愛の手に駿はくちづけた。

愛はビクッとし、そしてうっとりとした。手には痺れた感覚が残った。




真鍋 駿は、この間の夢を思い出していた。
……駿……
目の前で撃たれて真っ赤に染まった天使

この子は、なんて彼女にそっくりなのだろう。

彼女の真似をさせて、同じように呼ばせるのは少し心苦しかった。
でも、それ以上の甘い誘惑には勝てなかった。
手に触れた唇が熱く麻痺している。
髪に触れた手が細かく震えている。

なんで、あなたは目の前にあらわれたのだろう。

ぎゅっとこぶしを握り締めた。
これは現実なのだと確かめるように。
気を抜くと夢の中に落ちてしまいそうだった。
赤い月が愛を照らしている。


◆◆◆◆


ざわざわとしている。ここは、学校の教室の中だ。愛は自分の席に着いて、昨日の夜のことを考える。 まだ夢のような感じがした。そっと、手の甲にくちづける。胸が熱く、どきどきとしてくる。

―真鍋―
横のほうで話している女子の声が耳に入った。
何―?
横の女子に意識を向ける。
「真鍋……?誰だっけ?」
おかっぱ頭の女子がポニーテールの女子に尋ねる。
「ほら、こないだ転校してきたんだよ。F組だったかな。」
「じゃあ、また転校生がくるの?なんか連続だね。」

最初は何を言っているのか分からなかったが、どうやら転校生がこのクラスにやってくるらしい。 カッコイイ男の子だったらいいねなどと、一通り騒いで1時間目が来た。

先生は、案の定転校生を連れてきていた。女の子だった。
さっきの女子は残念そうにし、男子達は喜んだ。
綺麗な女の子だった。色白で、真っ黒なさらさらの髪が肩できっちりとそろえられている。
おとなしそうで上品だ。お嬢様なのかもしれない。

「後白河 まどかです。皆様、今日から宜しくお願いします。」
まどかは、すっとお辞儀をした。その姿は上品で華が咲いているようだった。

「席は、後ろの……小宮山の隣だ。小宮山、今日は教科書がないんで見せてやってくれ。」
しずしずとこちらに歩み寄る。
すっと席に着き、愛に向かってにこりと微笑んで「宜しくお願いします。小宮山さん。」と言った。

授業中は、熱心に先生の言葉を聞いているようなので、話しかけなかった。
さらさらと綺麗な女らしい字で黒板に書かれた字を鉛筆で書きとめる。
シャーペンは持ってないようだった。何本もの鉛筆が綺麗に削られて、木で出来た筆箱に入っていた。
何だか高そうだ。
休み時間になった。
「ありがとうございました。すみません。手違いで、教科書が届かなかったのです。」
丁重にまどかがわびた。
「いいのよ。たいしたことじゃないし……。」
愛は照れてしまった。なんだか日本人形のように綺麗な人だ。着物が似合いそう。
しんと沈黙が訪れた。
何を言っていいのか分からないので、間をもたそうとあわてて愛が口を開く。
「あ……愛って、呼んでいいよ。」
「まあ、そうですの。では、そう呼ばせていただきますわ。愛様。」
「いや、様はつけなくていいよ。私も、まどかちゃんって呼んでいい?」
「まあ、そんな風に呼ばれたことありませんでしたわ。ええ、よくってよ。愛さん。」
もごもごと愛が何かを言っていると、クラスの女子達が周りを囲んだ。

きゃあきゃあと黄色い声で、まどかを質問攻めにする。
その色々な質問にまどかはおっとりと答えていく。
「この学校ですか?ええ、校門が小さくてかわいらしいので分かりませんでしたわ。」
にこやかに微笑を絶やさずこの調子で延々と質問に答えている。
本当にお嬢様のようだ。

話しかけるのをあきらめて、人だかりをさけて廊下に出た。優子も廊下にいた。
「すごい人だかりね。彼女、お嬢様なのかな?」
優子は肩をすぼめてくすりと笑いながら言う。
「そうみたいだね。」
優子が、そばにいてくれたので安心した。人が多い所はやはり好きではない。が、一人は嫌だった。

ちらりと視界のすみに見えた時、愛の心臓は飛びあがった。
駿がこっちに向かってきている。
昨日の体温を思い出し、頬が熱くなった。

―駿

そう声を出そうとした瞬間。

「駿様!」

まどかが、嬉しそうに駿の方へ駆け寄った。
何?愛は、状況が飲みこめず混乱した。
知り合いなのだろうか?
考えていると、ぴたりとまどかは駿に寄り添った。

「ちょっと、あなた真鍋君知ってるの?」
優子が、まどかに向かって言った。
まどかは一瞬、駿のほうを見た。
駿は、困った顔をしていた。
まどかは、優子の方を向いて言う。
愛は、優子の肩越しに日本人形のように綺麗なまどかの顔を見つめる。
嫌な予感がした。

「ええ。婚約者ですの。」

日本人形は、うっすらと笑みを浮かべた。


2003.7.30.第7話に続く
モノクロワールド
     モノクロワールドとは、2003年から1年間、管理人ダウが書いていたテキストサイトのタイトルです。
テキストのシリーズには、「恋する女子達」という恋をテーマに書いた短いお話も入っていました。
このタイトルが今のサイトの名前の原型です。


今、モノクロワールドはなく、
いつ壊れるか分からないパソコンの中にひっそりとテキストたちはいます。
それは何だか寂しいなと思い、またひっそりとgirls in loveにアップしてみました。


検索でひょっこり来てしまったアナタ。
お暇つぶしによろしかったらお読みください。


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